【テキスト】スキマゲンジ第14回「澪標」

前回のあらすじ。
京ではあの嵐の夜以降、帝は目を患い、大后もひどく体調を崩し、右大臣は亡くなってしまいます。そんな中、源氏の君に京に戻るよう宣旨が下り、源氏の君は妊娠している明石の君を残して帰京したのでした。

スキマゲンジ第14回「澪標(みおつくし)」の巻。
新しい日々。


源氏の君は、気にかかっていた院の法要を盛大に執り行います。

大后は病が重くなっていながらも「結局、この人を失脚させられなかった」と悔やんでいますが、帝はずいぶん気持ちが軽くなり、目もすっかりよくなりました。何かと源氏の君に相談して政治をするようになっています。

年が明けて2月、皇太子が元服します。11歳にしては大柄で、大人びていてうつくしく、源氏の君が二人いるようです。
同じ月の20日すぎ、帝が位を皇太子に譲り、朱雀院となります。大后はたいそう慌てますが、「位を譲ったのでゆったりできますよ」と慰める朱雀院なのでした。

源氏の君は新しい帝(冷泉帝)の摂政につくべき立場でしたが、引退していた元左大臣に摂政を頼みます。左大臣は63歳になっていました。

源氏の君は、自分の邸の改築を進めています。「花散里のように、私しか頼る者がいない人たちを住まわせよう」と思っているのでした。

3月、明石の君が女の子を出産しました。
源氏の君は以前、占い師に「子どもは3人。帝、后と、太政大臣になります」と言われたことを思い出します。

「院は私をとりわけ可愛がってくれたのに、臣下のままにしておかれたことを思うと、私には帝になる宿命はないのだろう。だが、人々は誰も知らないが、冷泉帝は私の息子なのだ」と思ってみると、明石の君が産んだ女の子は后になる宿命を持った子どもだということになります。「しばらくしたら京に迎えよう」と、邸の改築を急がせるのでした。

紫の上には、噂が聞こえるより早く、直接話します。「できてほしいと思う人にはできず、思いがけない人に子どもができて残念ですが、女の子なので放っておくわけにもいかないので」と言うと、紫の上は「私はずっと悲しい気持ちでいたのに、遊びででも思いを寄せた人がおられたなんて…お互い気持ちは別々なんですね」と顔をそむけます。源氏の君はなぐさめようと琴の合奏を誘いますが、明石の君が琴の名手だと知って、琴に手を触れようともしません。源氏の君はそういうところも、いとおしいと思うのでした。

藤壺の宮は、帝の母親ということで職員もたくさん配置され、宮中にも遠慮なく出入りできるようになりました。一方、大后は「いやな世の中になった」と嘆くばかりです。源氏の君は、何かにつけて大后に丁寧にお仕えしているので、人々は大后がかえって気の毒だと思うほどでした。

紫の上の父である兵部卿は、源氏の君が須磨に行っている間、世間の評判を気にして紫の上にも何もしてくれなかったので、源氏の君はこの人に対してだけはかなり冷たい態度で接するのでした。

天下は、太政大臣(元の左大臣です)と、源氏の君の思うままでした。頭中将の娘がその年の8月に冷泉帝の后として宮中に入ります。兵部卿も娘を后にしようと大事に育てていましたが、源氏の君は無視しているようで、さあどうなるのでしょうか。

秋になり、源氏の君は住吉神社にお礼参りをします。宮中に勤める人々がわれもわれもとお供するので、盛大なお出かけになりました。

明石の君は、毎年住吉神社に舟でお参りしていたのですが、岸に近づくと立派な宝物を持った大勢の人や、舞を舞う人、楽を奏でる人など、大変な一行がいます。「どなたがお参りですか?」と聞くと、「源氏の内大臣さまがお参りになっているのを知らない人もいるのか」と位の低そうな男が笑います。

明石の君は「こんなお姿を見てしまうと、わが身がみじめに思えてしまう。なぜ、こんなにも偶然に、同じ日に来てしまったのかしら」と悲しくなってしまいました。

ひそかに舟を引き返させてしまった明石の君に気づき、従者惟光がそれを源氏の君に伝えると、気の毒に思って、すぐに文を書く源氏の君です。帰りの道中でもずっと明石の君のことを気にかけていますが、一行の中の若い貴族たちは、遊女たちとはしゃいでばかりいます。源氏の君は「楽しいことも、しみじみ思うことも、人柄から出てくるものだ。ちょっとしたことでも軽薄にとらえるような相手では、何も楽しくない」と、遊女たちが媚びを売ってくるのを厭だと思うのでした。

そういえば、帝の譲位にともなって、斎宮の交替もあったので、御息所が京に戻ってきています。源氏の君は昔と変わらず接しますが、御息所は、もう昔のようなつらい思いはしない、と決意しているので、逢うことはありません。源氏の君も、しいて御息所の心を動かしても、自分の心がどうなるかわからないので、無理に逢おうとはしませんでしたが、斎宮がどんな風に成長されたかは見てみたく思うのでした。

御息所は、前住んでいた六条の邸で気ままに過ごしていましたが、急に重い病にかかり、尼になってしまいました。

源氏の君はそれを聞いて、驚いて御息所のお見舞いに行きます。御息所は源氏の君が泣くほど自分のことを心配してくれているのに感動して、自分はもう長くないから、と、娘である斎宮のことを託します。娘を、決して愛人などにはせず、つらい思いをさせないように見てやってくださいと。源氏の君は「耳の痛いことを言うなあ」とは思いますが、堅く約束するのでした。

それから七日ほどして、御息所は亡くなりました。源氏の君は、心を込めて葬儀も法事も気配りをします。斎宮は美しい女性に成長していて、心は動きますが、御息所に厳しく釘をさされたので思いとどまり、「この子は帝のそばで仕えさせることにしよう」と決意するのでした。


次回スキマゲンジ第15回は「蓬生」の巻。あの「末摘花」が主人公の巻です。

古風で頑固な姫のお話。お楽しみに。

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