【テキスト】スキマゲンジ第17回「絵合(えあわせ)」

前回のあらすじ。
京に戻ってきた空蝉ですが、夫が亡くなり、義理の息子たちには冷たくされたり下心を持って接せられたりするので、出家してしまうのでした。

スキマゲンジ第17回「絵合(えあわせ)」の巻。
みやびな大バトル。

六条御息所の娘である前の斎宮が、冷泉帝の后として入内する日が来ました。じつは、朱雀院がまだ帝の時、伊勢に旅立つ斎宮を見初めて、戻ってくるのを心待ちにしていたのですが、源氏の君は体の弱い朱雀院と結婚させるより、若い帝の后にした方がいいと画策していたのでした。

朱雀院は悔しく思いましたが、何も邪魔することもなく、入内当日になって、見事な衣装や小物を贈るのでした。源氏の君が見ることもわかっていたらしいところが、わざとらしい感じもします。

化粧箱のひとつを見ると、櫛の入った箱に「離れてしまうことは神がお決めになったのでしょうか」という和歌が添えてあります。源氏の君はそれを見て、「朱雀院はどんな気持ちでおられるだろう。私なら耐えられない」と思い、「どうしてこんな、お心を悩ませるようなことをしてしまったんだろう。それにしても、やさしくて情の深い方だ」と思うのでした。

朱雀院は女にしてみたいほど美しく、斎宮とお似合いの年頃でもあるのに、冷泉帝はまだ幼いので、斎宮も実は入内したくないと思っているかもしれない、と源氏の君は胸を痛めますが、もう今さら中止することもできません。

一方で、晴れがましい斎宮の姿を見るにつけ、「御息所がおられたら、どんなに喜ぶだろう。あの方は本当にすばらしい女性だった。」と思い出すのでした。

冷泉帝は、新しい后が来るというので緊張しています。ひそかに「年の多い人は遠慮してしまうなあ」と思っていましたが、斎宮がたいそう恥じらい深くおっとりとしていて、小柄でか弱そうな感じの女性だったので、「とてもきれいだ」と思うのでした。

弘徽殿には、権中納言(もとの頭中将です)の娘が后として暮らしています。弘徽殿の女御は冷泉帝と小さい頃からの遊び相手だったので、冷泉帝も気がねがありませんが、一方、斎宮の女御のこともとても大切にするようになりました。権中納言は、自分の娘にライバルができたことを不安に思っていました。

冷泉帝は、何よりも絵が好きでした。斎宮の女御も絵を描くのが上手かったので、冷泉帝は斎宮の女御のところに行っては、絵を描いて過ごすことが増えました。

権中納言はその話を聞くと、根っから負けず嫌いなので、絵の上手い者たちを集め、素晴らしい絵を描かせては弘徽殿に持って行き、帝に見せます。帝が斎宮の女御のところに持っていきたがると、すぐに片づけさせてしまいます。

源氏の君はそれを聞いて、「権中納言は相変わらず大人げがないなあ」と笑い、自分の邸にある絵で持って行けるものを、と紫の上と一緒に選ぶのでした。

源氏の君が絵を集めていると聞くと、権中納言も自分の持って行く絵をより念入りに立派に用意させます。

三月の半ばで、天気も良く、人の心も穏やかだし、宮中の行事もないので、集まった絵を宮中の人々は楽しんで見ています。絵の良しあしがわかる女房たちが、「これは、あれは」などと批評したりもしています。

源氏の君がその様子を見て、「どうせなら、帝の御前で勝負しましょう」と提案します。(平安時代には、このように左右に分かれて、決められたものを持ち寄り優劣を競う「物合(ものあわせ)」という遊びがありました。その様子が詳しく描かれていますが、ここでは省略します。)

絵合の会ははなやかに、楽しく終わりました。源氏の君は「この帝の時代から始まったのだ、と後の人たちが語り伝えるような行事を作りたい」と思って、こういうことを企画したのでした。

さて、源氏の君は、冷泉帝がもう少し大人になるのを見届けたら出家しようと、山里にお堂を作り、仏像や経典の準備も始めています。ただ、まだ幼い子どももいるのだから、どう考えているのかはよくわかりません。


次回スキマゲンジ第18回は「松風」の巻。明石の君が京のそばに引っ越してきます。

思い出が進行形になる。お楽しみに。

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