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日本サッカー低迷期。そんないまこそ、フットサルが脚光を浴びるべき時だ。

「サッカーがバスケットボール化している」

少し前に、このような言葉を耳にすることがあった。サッカーワールドカップ・ロシア大会において、イングランド代表がバスケットボールの戦術を採り入れたセットプレーを武器に、センセーショナルな活躍をしたことで、一部のメディアでこのような記事が掲載されていた。

たしか、筆者が最初にこの言葉を目にしたのは、ペップこと、グアルディオラ率いるバルセロナの戦術を指しての記事だった。自チームが、ボール保持率を高めながら、相手が中央に絞って狭く守るところをどのように崩すか、どうこじ開けるか、という文脈が強かったように記憶している。グアルディオラが、バスケットボールやハンドボールの戦術的価値を認め、サッカーの戦術に落とし込んで、あの独創的な戦術を作り上げたことは、多くのサッカーファンや指導者の間では有名な話だ。

だが、サッカーを愛するものならば、他に思い出さなければならないスポーツがある。そう、サッカーにとって、兄弟ともいうべき最も身近なスポーツであるフットサルだ。

フットサルの歴史

フットサルのルーツは、ヨーロッパと南米の2つに起源をもつ。サッカーの母国イングランドから生まれ、弾むボールを利用し壁も使って良い「インドアサッカー」と、南米で生まれ、弾まないボールを利用して行う「サロンフットボール」だ。この2つの競技は、それぞれ独自に発展していった。世界中で異なるルールで発展していった2つの競技を、統一しようと動き始めたのが国際サッカー連盟(FIFA)だった。まず、1998年に、FIFAが、世界各国で競技されていたサロンフットボールなど原始フットサルを統一し、5人制サッカーの競技規則を定めた。つづいて、1994年に名称を「5人制サッカー」から「フットサル」とし、よりフットサルの特長を生かすように競技規則が改正された。2000年には、大幅なルール改正が行われ、現在の公式大会はすべてこの時に制定されたルールに基づいて行われている。
日本におけるフットサルは、2002年に行われたワールドカップ日韓大会を契機にして、急速に発展した。フットサルの気軽さが、サッカーファンの心を掴み、空前のサッカーブームが巻き起こるとともに、フットサル施設が全国に急増した。そして、日本サッカー協会と日本フットサル連盟は、フットサル全国リーグ設立準備委員会(2006年4月設置)の提案を受けて、フットサルの全国リーグをスタートさせることにする。Jリーグ同様、参加チームは、地域に根ざしたスポーツクラブになることを目指し、ホームタウン制やホームスタジアムの確保などを条件に挙げ、2007年、日本フットサルリーグ、「Fリーグ」を発足させた。

現在のフットサルを取り巻く環境

こうして発展して来た日本のフットサル界だが、現在は観客動員数が落ち込むなど、フットサルを取り巻く環境は、年々厳しさを増している。フットサルの観客動員数については、少し前の話になるが、私が東洋経済オンラインでも記事に書いているので、参考にしてほしい。

日本のフットサルは歴史が浅い分、文化として根付くにはまだまだ時間がかかる状況だが、海外のフットサル事情はどうなのだろうか。過去にスペインでプレーしたことのある深津孝介氏(元バルドラール浦安)は、スペインのフットサル事情をこう語る。

「スペインやブラジルは、フットサル先進国と言われていますが、実際、週末に行われるフットサルの試合は、地元のファンでアリーナが満員になります。サッカー選手とフットサル選手の交流も盛んですし、スペインでは、フットサル選手に対するリスペクトの大きさを感じました。ちなみに、グアルディオラがフットサルの練習会場や試合会場に足を運んでいたのは、スペインでは有名な話です。」

一部の先鋭的なサッカー指導者が、フットサルという競技の価値を改めて見直し出したことで、育成年代を中心に、フットサルを取り入れるチームが増えている。つい先日行われた第97回全国高校サッカー選手権大会でも、帝京長岡高校や矢板中央高校などフットサルを取り入れたチームが、センセーショナルな活躍をし、フットサルの可能性を示したのは、記憶に新しい。

日本サッカー界に足りないものを求めて

もともと、サッカーとフットサルは非常に似通った競技特性を持ったスポーツである。自陣と相手陣、それぞれの中心に置かれたゴールへ手を使わずにシュートを入れることで勝利を目指すスポーツだ。しかし、別のスポーツである以上、まったく同じというわけにはいかない。一番わかりやすい違いは「ピッチサイズが大きく異なること」と「プレイヤーの数が大きく異なること」の2点だろう。そして、この違いこそが、サッカーとフットサルという競技特性を大きく隔ててきた。

一般的には、フットサルは、サッカーの下位互換のスポーツのように見られているのかもしれないが、実際にFリーグの試合を見てみると、サッカー以上に激しいスポーツであることがわかる。東京五輪予選を兼ねたU-23アジア選手権で、森保一監督率いるU-23日本代表は、1勝も挙げることなく、グループリーグで姿を消した。ゴールに向かう姿勢が見られず、プレー強度もスプリント数も物足りないように感じた。そんな、いまの日本サッカーには足りないものが、フットサルには、確かにある

筆者は戦術の専門家でもなんでもないが、攻守の切り替えの重要性や、数的状況の判断力の強化や、セットプレーの重要性、交代も含めたベンチワークなど、Fリーグでは、すでにトレーニングメニューにまでしっかり落とし込まれており、各チームがそれぞれの色を出しているのだ。

国内最高峰フットサルリーグであるFリーグは、Jリーグの下位互換などではない。いまのFリーグを観れば、日本サッカー界に足りないものがくっきりと見えてくるはずだ。


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