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椎名幸夢
2023年5月30日 12:16
新幹線から見える街の夜景には雪が降っていた。私は小説を読む合間にその景色を時々眺める。 今は東京には戻りたくなかった、あらゆる場所が失った恋を連想させてしまうから。とは言ってもいきなり海外旅行はお金も勇気も無い。それならばと、この小説の行き先にもなった、佐賀県の嬉野温泉に行こうと思ったのだ。 通路側の席に、黒いハットにスーツ姿の男性が座った。肩まで伸びている彼の黒髪が揺れる。どこかクラシ
2022年12月3日 20:54
銃口が重なった瞬間、引き金を引く。「……しんじゃえ」 マシンガンは轟音と共に、敵の女を一瞬で蜂の巣にした。……気持ちがいい。口元が緩んでいるのが自分でも分かる。相手はさぞ悔しい事だろう。今撃ち抜いた相手が立派な人だったらもっといいなと思う。だって、ゲームでは現実の偉さなんて関係ないのだから。『クイーンズ・ガン』は平等の世界だからこそ、楽しいのだ。 しかしYOU WINの文字が映し出された
2022年11月2日 13:08
煙草の煙を深く吸い込み、吐き出す。白い煙はもくもくと新潟の寒空に登っていく。 俺はその様子をぼうっと眺めていた。――いや、何も考えない様にしていたと言った方が正しいか。「長時間運転お疲れ様。スイセン」コンビニの入り口から俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。俺は笑って見せる。「なぁに、これから歌うナナカさんに比べれば、楽勝っすよ」 ナナカ、伊勢七叶は凍った様に表情を変えず、俺の隣に立つ。俺はコー