バックスタブ・ショットガン
巨大都市国家クイントピア。南区。夜の路地裏。
路地の入口にあった魔王殺しの勇者像はひどく苔むしていた。銃と魔導車、文明の発展の中で忘れ去られたレガシーだ。
「あんたのせいで冒険者ギルドは大いに迷惑してる」
「東区から俺目当ての物騒な奴らが流れてくるから?」
「他に何があるっての?」
鋼鉄ステッキを手にした女冒険者が、俺を横目に睨んだ。
クイントピアは東西南北中央の5区画からなる。
今いるのは南区で、つい最近までいたのは東区だ。南区は冒険者ギルド、東区はギャング組織『ヒュドラ・クラン』のシマになっている。
今の状況になったのは、ほんの3日ほど前のことだ。
ヒュドラ・クランの鉄砲玉だった俺は、親父――組長に用済みとして殺されかけた。そして逆に殺した。そのあと南区に逃げて冒険者ギルドに転がり込んだ。直後にクランの追手がギルドの建物にトレーラーで突っ込み、区を跨いだ抗争となった。
「あんたにもヒュドラの奴らにも、これ以上の好き勝手は許さない。ギルドマスターが対処を考えるまで私たちが護衛をする……不本意だけど」
「ヤー、ヤー」
俺は話を流しつつ、思考を巡らせた。
「対処」――そもそも一連の事件はなぜ起きた?
謎は多い。俺と親父は10年来の付き合いで、ずっと上手くやってきた。
なぜ親父は俺を殺そうと考えた? 真相を探る必要がある。
「――探したぞ、名無し」
そのとき、路地の前方から声。
バラクラバで顔を隠した男、数は3。
おそらく全員が魔法使い。手にはギャング仕様の短機関銃。
「噂をすれば影。どうす……」
言いかけた時には、既に女がステッキで1人目を殴り倒していた。
短気な奴だ。俺は肩を竦め、コート下から得物を抜いた。慰謝料代わりに奪ってきた、親父の8ゲージショットガンを。
そのまま右の靴底で床を踏む。
――次の瞬間、俺は敵の真後ろで銃を構えていた。
「バックスタブだ。死ね」
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