タカタ
スパイダーポリスマン
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スパイダーポリスマン

タカタ

最近やたらとクモを見かける。クモがいるところには必ず、彼らが作った巣がある。小さな体なのに、よくそんな大きな巣をつくるよなと感心する。
その巣はクモにとって家であるのと同時に、獲物を捕らえるための罠でもある。その糸に引っかかれば最後、クモの餌食になって終わりだ。

それが彼らの生態であり、生存するための生き方なのだ。それは分かっているが、なんだかずる賢いなとよこしまな思いが浮かぶ。巣を張っていれば勝手に獲物が飛んできて、あとはおいしく頂くだけ。悪徳商法に似た狡猾さを感じる。

子どものころの私は、クモの思想(そんなものないけれど)が気に入らなかった。クモの巣を見つければ、人差し指を刀のようにしてプイッと切断した。

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4年ほど前の話だ。自転車を走らせ、私は駅まで向かっていた。近くの駐輪場までもう少し、というところで誰かに声を掛けられた。「ちょっといいかな、君」。警官だ。交通取り締まりの一環で、調査をしてると彼が言う。私はとっさに、やられた!と心の中で嘆いた。

「君ね、イヤホンしてるでしょ」。確かに私の両耳には、bluetoothのイヤホンが装着されていた。
「最近法律が変わってねぇ、自転車乗ってるときにイヤホンはしたらダメってことになったんだよ。知ってた?」。いや知りませんでした、と私は答えた。

名前や住所、それに大学の名前を聞かれた。咄嗟に偽名を使ってしまおうかと思ったが、正直に答えた。ポリスメンは無線を使い、どこかと連絡をしている。その連絡が終わるまで、私は立ち尽くして待つしかなかった。他の自転車が、私の横をスイスイ通り過ぎていく。その場でどんな顔をしたらいいのか分からなかった。まるで私が悪いことをしているみたいじゃないか(いや悪いことをしたのだ)。

次からは気をつけてねと言われ、取り締まりは終わった。やるせない後味が残る。自転車のスタンドを蹴る前に、私は警官を見て思った。「これがあなたの仕事ですか?」。我ながらなんて狡猾なセリフなんだ。もちろん口にはしていない。悪いのは私だ。

それからは自転車に乗るときには、イヤホンは必ず外すようにしている。全て若気の至りだったことにしよう。

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この話を思い出したのは、また同じようなことがあったからだ。今回は私ではなく、父親が取り締まられた。

父の運転する車に乗り、百貨店に向かっていた。十字路を左折して、駐車場を目指す。もう少しで到着する、というところで誰かに止められた。警官だ。ちょっとすみませんと言いながら、こちらに向かってきた。

どうやら左折禁止のところを、左折してしまったらしい。父は免許証の提示を求められ、後日7,000円の罰則金を払うことになった。
助手席に座っていた母と共に、父は行き場のない気持ちを言葉に変えていた。「そんな看板見えへんかったよ」「やられたなー。まぁしょうがない」「こんなところに警官がいるってことは、ここで間違えて左折する人が多いってことやな」。

その声を尻目に、私は窓の外を見た。脇道に停められた車内からは、数本の木が見える。その木々の間に、一匹のクモを見つけた。大きな巣を張る、小さなクモだ。

これは罠かもしれないな、私はひとりそう思った。

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26歳。本や映画の感想を投稿してます。毎月末に本の紹介記事書いてます。それ以外に月1,2回投稿し…たい。