Sean
部下の人々がすごい良い製品を作っていたので、厚突単板の製造現場を見に行った
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部下の人々がすごい良い製品を作っていたので、厚突単板の製造現場を見に行った

Sean


弘前はもっと雪が積もっていた。迎えにきていただいた車の中での話は、積もった雪に視界を遮られた状態での運転がいかに危険かということだった。交差点という交差点に視線より高い雪の壁が立っている状態なので、運転者から見ると道を渡る人全員が飛び出してくるように見えるようだという話だった。

そもそもこの製品の企画は、「突板では本物の木とは言えない」、というラジカルな主張から始まっている。少なくともオフィス用の家具で使われる天板の表面材は汎用的にはメラミン化粧板、高級品は突板、というのが常識だ。突板は本物の木の手触りの高級感を付加しているので価値が高いですよという説明をしろ、と新入社員の時に習った。もちろん、突板は広く普及しており、ラジカルな主張で敵を作るのは全く本意ではないが、数年前、かなり売れっ子だった米国のインテリアデザイナーと仕事をした際に、どう考えても無垢材では成立しないサイズのテーブルの図面が送られてきて、当然突板で提案したところ、こんな人工的なインテリア・シートでは木とは言えないのでイヤだ、と拒否られたことがあった。その時は厄介な話以外の何者でもなく、部下の人々が苦労してあんじょう納めてくれたみたいであったが、無垢材で成立しない形状を提示しておいて突板も否定する高名なデザイナーの主張、というのがムチャを超えて何やら新しいような気がして強く印象に残った。

私自身はその程度だったが、真面目な部下の人々はこれの解決策を探求していた。薄板である突板は薄くあるが故に、強度のために構成されている芯材の冷たさを拾ってしまい、手触りは木であっても温もりは伝えない、という弱点を持っていた。米国のデザイナーの言うとおりである。執着心の強い部下の人々は、「では一体天然素材部分が何ミリの厚さ以上であったら温もりが伝わるのか」を探求した。同時にそれは経年による変形とのトレードオフであり、突板の薄さはこの難問に対する理に適った解決策であったからこそこれまでディファクトであり続けた。つまり、突板は「強い芯材相手に、シート状にすることで反らなくした天然木材を貼ることで強度と手触りを両立させたが、木の温かみは諦めていた」、ことになる。故に、今回は、「木の温かみを残しながら強度と形状を保つ」、というシンプルな無理難題を解決することになる。

その後、オフィスの中に実験的に並べられていた何十枚かの板切れが盛大に反り返ったり割れたりしているのを時々見せてもらったが、今回やっと完成しましたぁ、ということだった。弘前の製材所はそれを一緒に試行錯誤してくれた会社で、取材に快く応じていただいた。動画では最後の方の工程になるが、スイスの機械メーカーから購入した日本にまだ一台しかない機械を、若い女性のスタッフが操っていた。当方の無理目の要望に対して導入したばかりの機械を使えば実現できるのではないか、というチャレンジをしていただいたが、海外との行き来が制限される中、機械メーカーの技術支援を受けるのも大変だったという話を伺った。一回だけ来てもらった以降は、リモートで製造現場とエンジニアが通訳を介して検討したとのこと、頭が下がる思いだ。経営者の方は技術習得に至るまでの苦労を機械を操作している若い女性スタッフの努力の賜物だと讃えていた。製造に携わる方々、特に日本の製造業の探究心、責任感、誠実さ、勤勉さ、ストイシズムは世界に誇れる資質であると改めて思った。こういう話を聞くと、僕らも頑張ろうというエモさ満点の気持ちになる。

工場の中でどんどん出来上がっていく厚突単板というオフィス家具にとっての新素材を見ながら、日本の製材業、米国のインテリアデザイナー、スイスの工作機械エンジニア、私の部下の人々、が雪深い弘前に去来している錯覚を覚えた。

PCR検査をして一泊二日で臨んだ源流の旅だったが、快晴の撮影環境もあり、大収穫だった。そして、木材の源流を辿って完結にしようと思っていたがここまできたら金属パーツも取材したくなった。なにせ、木材の技術と自分達の固有の技術を融合させるところが現時点での最高峰であるのだから。この辺りの融通無碍な感じは、動画制作を外部に委託していたらとても実現できない。本部長系Youtuberの面目躍如として、多少時間はかかるかもしれないがシーズン2は制作したいと心に誓って帰路の新幹線に乗り込んだ。


動画の内容:

いよいよ原材料編大詰め。天然の素材をヒトは機械で粘り強く加工していく。手本も先生もいない中、ひたすら素材と向き合い、木にもヒトにも最良の結果を紡いでいく。相棒は日本に一台だけの機械。

00:00 オープニング さらに大雪
00:21 ロータリー単板 桂剥き
01:25 製材単板
02:18 ロータリー単板カット 目視で除外していく
03:00 乾燥
03:07 表面材小口接着 日本で一台の機械で試行錯誤
03:49 うまく混ぜて風合いを出す
04:19 スイスから来てもらったけど、なかなか
04:42 これがオルガテック東京向け
04:48 接着〜日本橋用です
04:58 いやいやぁ〜旅行記

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Sean
まぁまぁすごいことを生み出しているのに表現力の不足とインハウスの制約で残念なことになってるクリエータの才能を開花させたい。 そんなには大きくはないメーカーで製品開発を担当している50歳代。