国民年金及び厚生年金に係る財政検証結果について(談話)

2019年8月28日
社会民主党幹事長 吉川はじめ

1.厚生労働省は27日、公的年金の財政の現況と長期見通しに関する財政検証結果を公表した。前回の5年前は6月はじめに公表され、今年3月には社会保障審議会年金部会の専門委員会が6通りの前提を示した報告書をまとめていた。老後の安心の柱である公的年金の将来像について、国政選挙で与野党がそれぞれの考え方をしっかり訴えるべきであった。しかし「老後2000万円」問題を受け、参院選で年金問題が政治問題化しないよう今日まで公表を先送りしたことは許されない。財政検証結果や低年金者対策、将来の年金制度等について議論するため、関係委員会の閉会中審査を求める

2.2019年度の所得代替率は、5年前から低下し61.7%となったが、「将来の所得代替率5割を確保していく」と安倍首相が強調するように、高成長ケースや標準的なケースでは将来にわたり50%以上を維持できるとの結果となっている。しかしあくまでも65歳での受け取り開始時点に限られ、その後は年齢を重ねるごとに目減りして50%を割り込み、最終的に40%程度に下がる。また、若い世代は、より低い水準から早くスタートすることになる。しかも試算は成長が続くことが前提で、想定を下回れば水準はさらに低下することになる。最も厳しいケースⅥでは、国民年金の積立金の枯渇が前回より3年前倒しされ、所得代替率が36%~38%程度になる可能性がある。高い数字を前提に「見せかけの安心」を演出することは、年金財政が持つ深刻な問題を隠蔽することになりかねない。実際、安倍政権は株価を上げて成長を見せかけてきただけで、むしろ経済状況は悪化し、実質賃金もマイナスとなっていることから、見通しは厳しいのではないか。そもそも所得代替率は、分母が現役世代の手取り収入額(税・社会保険料引いた可処分所得)、分子がモデル世帯の年金額(税や社会保険料を引いていない)で計算されることから率が高く出るようになっており、OECDなどのように分母・分子を額面か手取り収入かでそろえ、より正確な所得代替率に見直すべきである。

3.2004年に年金の伸びを物価や賃金の伸びよりも抑える「マクロ経済スライド」が導入され、その後、2016年に強行された「年金カット法」によって、「キャリーオーバー制度」や、「賃金マイナススライド」などが導入されている。2004年当時の見通しに比べると、給付抑制が必要な期間が長期化し、今後30年近く給付抑制を続けないと制度を持続できない結果となり、それだけ年金カットが続くことになる。しかも「参考資料」として「2016年年金改革法による年金額改定ルールの効果」も示され、こうした抑制策がフル発動した試算もなされている。しかし、年金から天引きされる後期高齢者医療保険や介護保険の負担増も止まらず、これ以上の生活実態を無視した年金額の目減りは低年金者ほど影響が大きい。少なくとも基礎年金部分のマクロスライドは廃止し、「年金カット法」を見直す必要がある

4.基礎年金加入期間の45年への延長、在職老齢年金制度の見直し、厚生年金加入年齢の70歳以上への引き上げ、厚生年金の加入対象者拡大などの「オプション試算」を示している。中小企業への支援を強化しつつ、非正規雇用労働者の厚生年金加入の拡大をはかるべきである。一方、今回の試算では、現在20歳の人が今年65歳で引退する世代と同じ水準の年金をもらうには、68歳を超えて働き、年金受給開始年齢も今以上に遅らせる必要があるとされる。しかし、高齢者の就職状況は非常に厳しく、定年延長も進んでいない。健康状態は非常に個人差があり、老老介護も深刻である。「人生100年時代」を強調する安倍政権のもくろむ、年金給付の大幅な抑制を狙った年金支給年齢の引き上げは断じて認められない。

5.財政検証は、平均的な男子賃金で40年間厚生年金に加入した終身雇用の夫と40年間専業主婦の夫婦をモデル世帯としている。そもそも家族形態やライフスタイルの多様化、就労環境の変化などに対応していないモデル世帯は、現実と乖離した虚構である。厚生年金に加入していない非正規社員や単身高齢世帯が増加しており、生活保護受給世帯の半数が高齢者世帯である現実を踏まえ、無年金・低年金者対策が急がれるし、モデル世帯でないケースの試算も示すべきである。社民党は、納得・信頼の公的年金制度に向け、老後の経済的基盤たりうる最低保障年金の創設に取り組んでいく。
 
以上

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