フリー素材から気分に合わせた楽曲が自動再生されるーー「AI Music」を考える

Screenless Media Lab.ウィークリー・リポート
2022.3/25 TBSラジオ『Session』OA

Screenless Media Lab.は、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回は、Appleが買収した注目の企業から、次の音声サービスについて考えてみたいと思います。

◾音楽市場におけるストリーミング

近年、アメリカでは音楽産業が息を吹き返しており、2021年のアメリカの音楽産業全体の売上は、昨年比23%増の150億ドルと、金額だけで言えば最高額だった1999年の146億ドルを超えています

https://www.riaa.com/wp-content/uploads/2022/03/2021-Year-End-Music-Industry-Revenue-Report.pdf

その要因として挙げられるのが、定額で音楽が配信されるストリーミングサービスであり、全収入の83%がストリーミングでした(その他にLP、CD等のフィジカル、および音楽ダウンロード等があります)。

ちなみに、日本レコード協会も2021年の音楽産業の売上を発表しており、前年比4%増の2832億円となっております。日本は世界的にみてもCD等のフィジカルの売上が多くを占めていますが、やはりストリーミングは伸びており、ストリーミングの売上だけで言えば前年比126%になっています。

今後も注目されるストリーミングサービスですが、自らも音楽配信サービス「Apple Music」を展開するAppleが、「AI Music」という企業を買収したことが2022年2月に報じられました。AI Musicはロイヤリティ(著作権)フリーの素材を利用してAIがサウンドトラックを作成する企業であり、2016年にロンドンで設立され、作業員数は20名程度。買収額は明らかになっていません。

この買収から見えてくる戦略として、フリー素材をAIがユーザーの好みに合わせてアレンジし、プレイリストに組み込むことが想定されます。

◾Appleの強み

当ラボはこれまでにも、AIを用いてユーザーの状況に合わせて、自動的に既存の楽曲をアレンジするサービスについて紹介してきました。しかしそのためには、ユーザーに関する情報を得るという作業が必要です。

一方、Appleの強みはiPhoneを通してユーザー情報を豊富に有していること、また特にAppleWatchを通して、ユーザーの健康や「今の状態」に関する情報を有していることです。つまり、予めAppleはユーザー情報を多く持っているという強みがあります。

こうした点から、例えば次のようなサービスを考えることができるでしょう。つまり、Appleはユーザーの情報をもとに、将来的にはユーザーの心拍数といった状況に応じて、次に再生する楽曲のアレンジを行い、個々のユーザーのためだけの楽曲を多数生成することが可能になるかもしれません(もちろん、個人情報やセキュリティ、技術的な問題もあり、この点には注意が必要です)

音声配信業界において、近年はポッドキャスト制作等、Spotifyの活動が目立っていますが、Apple をはじめ、様々な企業が次のサービス開発に取り組んでいるのです。


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