トイレで発生する音から私たちの健康を探るーー「トイレの音研究」の紹介
2023.1/06 TBSラジオ『荻上チキ・Session』OA
Screenless Media Lab.は、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回は、聞かれたくはないが病気の発見に重要な意味をもつ「トイレの音」に関する研究を紹介します。
◾トイレの音が病気の早期発見に
音は人のヘルスケア向上に用いられています。日常にあふれる様々な音ですが、個別的、あるいはあまり外には聞かせたくない音に「トイレの音」が挙げられます。
ともすれば隠したい音でもあるトイレの音ですが、米ジョージア工科大学の研究者を中心とするチームは、研究会での発表や論文の中で、トイレの音から病気を発見する装置の開発を行っています。
研究で早期発見を目指すのは「コレラ」です。コレラはコレラ菌に汚染された食品を口にすること等で感染し、下痢等の症状をもたらします。コレラは毎年数百万人が感染し、数万~十数万人の人が毎年亡くなっています(幼い子どもには特に注意が必要で、コレラを含む下痢性疾患で年間50万人の子供が亡くなっているとのことです)。
このため、下痢の早期発見が重要ですが、これは個人だけでなく当該地域でのコレラ発生が観測可能になります。そこで研究者は、YouTubeや「Soundsnap」という、サウンド素材のデータベースから350種類の排便に関する音声を収集し、AIに学習させます。そして、スペクトログラムという、音=周波数を色の強さ等で示すグラフに変換した上で分析するシステムをつくります。
次に、実際にトイレに専用のセンサーとマイクを設置してトイレの音を録音。これを分析した結果、人の話し声等の雑音を消去した音であれば最大98.1%、雑音があっても96%の精度で下痢性のものであるかどうかを判別することに成功しました。
ただし研究者によれば、今回のAIは男性のみを対象としており、女性には対応していません(排泄器官が男性と異なっているのが理由ですが、対応が待たれます)。またコレラが蔓延する国はトイレが整備されていない地域も多く、またトイレの種類によっても音の特徴が変化することから、まだまだAI技術には課題があるといいます。とはいえ、多くの地域に設置することで、コレラの早期発見が期待される研究であると言えるでしょう。
また、研究者はもともと大腸がんを非侵襲的な方法、つまり直接患者に触らずに探る方法を模索する中で生まれた研究です。さらに、今回のシステムは排尿であるかどうか等の区別も可能であり、この分野の研究発展が期待されます。
◾トイレの蓋は閉じてから流す
最後に、音とは異なる研究ですが、アメリカの研究によれば、北アメリカの一般的な公衆トイレの便器を流すと(1.6 gallon-per-flush: 1回で1.6ガロン=約6リットルの水が流れる)、エアロゾル粒子(微小な液体や粒子と気体の混合物)が、8秒ほどで1.5メートルまで上昇することがわかりました。
エアロゾル粒子は当然、大腸菌やノロウイルスといった、感染症を媒介する可能性があります。コロナウイルスは排泄物に存在しますが、それがトイレのエアロゾルによって拡散するかについての証拠は、現在のところ存在しないということですが、いずれにせよ、トイレの蓋は閉じてから流すようにしましょう。
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