火星の音は地球よりも遅い?ーー「火星の音の秘密」紹介

Screenless Media Lab.ウィークリー・リポート
2022.6/10 TBSラジオ『Session』OA

Screenless Media Lab.は、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回は、火星探査によってわかってきた、火星の音について紹介します。

◾火星探査車「パーサヴィアランス」

地球以外の星や宇宙では、どのような音が鳴っているのでしょうか?火星を探査するため、NASAが2020年7月30日に打ち上げ、2021年2月18日に到着が確認された火星探査車「パーサヴィアランスPerseverance(忍耐強さの意味)」が、火星の「音」を地球に届けています。

この火星で収録された音は、NASAのHPにて公開されています。(そのほとんどは風や機械の音で、また電磁波の影響もあると考えられており、心地よい音というわけではありません)

岩石の採取など、様々な探査を行うパーサヴィアランスは、搭載されたマイクを通して、風の音やタイヤが砂利を進む音を集音しています。事前の予測では、火星と地球の大気密度の差(火星の大気密度は地球の1%程度)から、地球よりも音の速度(音速)が遅いと考えられていました。


そこで、パーサヴィアランスが地表にレーザーを照射し、その音がマイクに届くまでの時間を、当時の風速等の気象情報を含めて分析しました。こうした研究についての報告はいくつかありますが、詳しく研究したものには、2022年4月に科学ジャーナル「Nature」に発表されたものがあります。

https://www.hou.usra.edu/meetings/lpsc2022/pdf/1357.pdf

◾火星の音は地球よりも遅い

研究によれば、火星の音の速度は秒速240メートルということが判明しました。地球の秒速は340メートルなので、比べると当初の予測通り、火星では地球よりも音速が遅いことがわかりました。さらに、240Hz以下の低音は秒速230メートルになるという、地球とは異なる特徴も判明しました(こちらは二酸化炭素の量が関係しています)。

人間の可聴音は20Hz~20000Hz(20kHz)であり、240Hz以下とは簡単に言えば、低音=低い音を指します。つまり、火星で音楽を聴くと、高音の声や楽器が聞こえた後で、ベースやドラムの低い音が少し遅れて聞こえてくることになります。これは会話も同様なので、少し離れた場所で会話することは、これまでの常識からすれば難しくなるでしょう。

さらに、火星の一年は687日(公転周期)ですが、季節によって大気が変動し、例えば冬は二酸化炭素が凍結するため、さらに音の大きさが変化すると考えられています。パーサヴィアランスの働きによって、今後も知られざる火星の「音」についての情報が、私たちに届けられるでしょう。


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