ユーザーの「感覚」を分析したメディア、マーケティング論ーー「ラボ初の書籍」の紹介

Screenless Media Lab.ウィークリー・リポート
2022.9/16 TBSラジオ『Session』OA

Screenless Media Lab.は、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回は、当ラボが出版した初の書籍について、詳しく紹介します。

◾当ラボ初の書籍『SENSE』

2022年9月15日、当ラボの所長堀内進之介と、テクニカルフェロー、ディレクターの吉岡直樹による著書『SENSE インターネットの世界は「感覚」に働きかける』が日経BPから出版されました。

本書はタイトルの通り、インターネットにおけるユーザーの「感覚」に焦点を当て、昨今注目される「感覚マーケティング」について分析しています。もちろん、最新のメディア状況を踏まえたものなので、メディア論にもなっております。また、感覚の例として、とりわけ「音=聴覚」について分析した本書は、最新の感覚マーケティング論、メディア論、そして音声(聴覚)論にもなっている、中身の濃い一冊です。

昨今は様々なメディアが乱立していますが、デジタルマーケティングの世界では、「感覚」に注目が集まっています。情報過多の時代において、ユーザーは何かを選択することに疲れて、無関心になっています。そこで、NetflixやSpotifyといった視覚や聴覚を用いたサブスクリプションサービスは、ユーザーの選択=負担を免除することで、この問題を乗り越えようとしています。本書はこの点について、特にユーザーの視覚や聴覚といった「感覚マーケティング」の観点から、その構造を解き明かします。

感覚マーケティングの観点からは、一時期大流行したClubHouseが、なぜ一過性のものになってしまったのかが分析されます。その一因として、スマホユーザーにとって、スマホがあるのに聴覚だけにアクセスが限定されてしまっている点が挙げられます。この問題の根底には、ユーザーの接触「導線」、つまりユーザーを取り巻いているメディア(媒体)環境などが重要になります。

この点を踏まえれば、インターネット時代では、「視覚メディア」や「聴覚メディア」といった、これまでの区分は本質的に存在しません。区分にこだわることなく、ユーザーの感覚を重視した「メディア体験」が重要になることを、本書は様々な事例を用いて説明します。

他にも本書は、ユーチューバーのヒカキン氏を挙げています。ヒカキン氏の動画はテロップと効果音が絶妙に配置されており、聴覚障害者は聴覚だけでもその内容を理解できます。音と視覚のバランスが適切な「複合メディア」は、今後のメディアにおいて重要な意味を持つのです。

◾感覚に訴える「音」

一方、感覚としてはどうしても視覚に注目が集まりがちなインターネットですが、動画広告にすっかり飽きている現代の私たちにとっては、「音」が重要な意味を持ちます。音は人の注意を引く意識的なものだけでなく、音が意識されないのに、確実にユーザーの感覚に訴えるものがあるからです。

一例を挙げれば、以前紹介した濁点の多さなどが強さを感じるといった音象徴。また、料理に合わせてBGMを変更することで、甘みを強くしたり、炭酸を強く感じる「ソニックシーズニング」などがこれに該当します。さらに、スローテンポなBGMが怒りを抑える効果をもたらします。

こうして視覚はもちろんのこと、音は意識的/無意識的に人の感覚に訴求します。ラジオを含めた聴覚メディアは、音の専門家として、様々なメディアにおける音の設計を行うことが求められます。同時に、新たな複合メディアを自前で開発する道も考えられます(ここで重要なのが「V Tuber」です。詳細は本書をお読みください)。

本書は最後に、「サウンドロゴ」やユーザーの注意のひきつけ方など、実際に音声を効果的に用いる実践例を詳細に論じています。こうして本書は、マーケティングやメディア論、音声論を幅広く網羅しています。発売されたばかりの『SENSE』、ぜひご一読ください。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?