不安な時は文字よりも声のコミュニケーションをーー「声とオキシトシン」を考える

Screenless Media Lab.ウィークリー・リポート
2021.1/22 TBSラジオ『Session』OA

Screenless Media Lab.は、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回は、コミュニケーションにおける文字と音声の差異に注目した研究について、紹介したいと思います。

◾文字と声

新型コロナウイルスの影響で、実家への帰省を控えるなど、近親者であっても離れて暮らす日々が続いています。コミュニケーションが困難になる中で、不安に思うことも増えています。

ところで、ウィスコンシン大学の研究者は、「Instant messages vs. speech(インスタントメッセージ対スピーチ)」という論文の中で、コミュニケーションにおける「声」の重要性を主張しています。

私たちは言語を獲得し、文字情報からやすらぎや興奮を得ることができます。一方、研究では「声」を通したコミュニケーションの方が、不安の解消につながるといいます。

研究は、7.5歳から12歳まで(10歳前後)の 68 人の女児を対象に、まず簡単な数学の問題を解くなどの、ストレスを与えます。その後で

①一人で休む
②母親とインスタントメッセージ(LINEのようなメッセージツール)でやりとりする
③母親と電話で話す
④母親と直接会って交流する

という4つのグループに分けて実験しました。結果、一人やインスタントメッセージでのやりとりに比べて、電話や直接会っての交流の方が、ポジティブな人間関係を維持する「オキシトシン」というホルモン(俗に「幸せホルモン」とも呼ばれる)の値が上昇することがわかりました。逆に、ストレスを受けると増え、ストレスホルモンとも呼ばれる「コルチゾール」の値は下がります。

一人でいるより母親と一緒の方がオキシトシンが増えることについては、予想がつくかと思います。とはいえ、この研究で重要な点は、言語情報よりも聴覚情報の方が、不安な気持ちを抑え、ポジティブな気持ちを上昇させることができるということです。それは声を聞くことそのものに生理的な効果があるということです。また逆に言えば、癒やしという意味において、言語情報は声の完全な代替にはならないということでもあります。

◾声で不安を抑制する

もちろん、この研究対象は大人と比較すれば言語能力が未熟な10歳前後の子供であり、大人で実験すれば言語と聴覚の値の差が小さくなるとも考えられます。とはいえ、聴覚情報が不安の軽減に重要な意味をもっていることもまた、事実であると思われます。

この実験結果について研究者は、書き言葉(文字情報)はニュアンスや感情的なトーンが豊かである一方、オキシトシンの分泌にはあまりつながらないことが考えられると述べています。また文字の発明が数千年前に対して、音声信号はそれよりずっと前に生まれたものであるという推察もされています。

研究者は同時に、現代の10代前半の子供の多くは、友人とのコミュニケーションにテキストメッセージを利用しているが、特にストレスを感じた後は、できるなら家族と声や直接のコミュニケーションを推奨しています。

新型コロナウイルスの影響で、親しい人とのコミュニケーションができず、定期的にLINEなどのメッセージでやりとりをしている人も多いと思います。ただし、この研究を踏まえれば、電話等の音声を介したコミュニケーションの回数を増やすこともまた、重要であると考えられます。

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