AIが作曲したコラボ楽曲をレーベルが削除要請ーー「AIと著作権」の最前線

2023.5/12 TBSラジオ『荻上チキ・Session』OA

Screenless Media Lab.は、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回は、AIによる楽曲作成と、著作権の問題についてご紹介します。

◾AIによってコラボ楽曲が生成され、レーベルは削除を要請

当ラボはこれまで、AIによる楽曲作成ツールの紹介等を行ってきました。作曲AIが楽曲を生成するには、実際の楽曲データを大量に学習する必要があります。一方、複数の報道によれば、音楽レーベル大手のユニバーサルミュージックグループは、SpotifyやApple Musicといったストリーミングサービスに対して、AIに楽曲を学習させるのを防ぐように求めたとのことです。

レーベルからすれば、自分たちが著作権を保有している楽曲をAIが勝手に学習することは、著作権保護の観点から問題だ、と捉えているのです。アメリカには「フェアユース(公正な利用)」という概念があり、一定の基準の範囲内であれば、著作権を侵害することなく著作物を利用できます。ただ、AIの学習がフェアユースに該当するかどうかは、昨今の生成系AIの文脈でも議論が続いています。

一方で、一般のユーザーがAIを利用し、既存のアーティストの合成音声を、既存の曲やオリジナル楽曲で歌わせるといった事例が相次いでいます。

実際に2023年4月にはあるユーザーが、ラッパーのドレイクとシンガーソングライターのザ・ウィークエンドの歌声を合成音声化し歌わせたコラボ楽曲(heart on my sleeve)が発表されると、tiktok等で人気を博し、SpotifyやAppleMusicでも配信されました。

一方、ドレーク氏は勝手に自分の歌声を使われたことについてSNSで懸念を示し、また二人が所属するユニバーサルミュージックグループはプラットフォームに削除を要請し、現在ではこの楽曲は削除されています。

このような事例は他にも数多くありますが、AIと著作権の間で問題が生じていることは確かであり、現在も議論の真っ最中にあります。

◾自分の声をAIに利用することを許可したアーティスト

一方で、自らの声をAI楽曲に利用することを許可するアーティストも現れています。カナダ出身のアーティストのグライムスは2023年4月24日、Twitterにて、自分の声を楽曲に利用してよいことその条件は、成功した分の50%をロイヤリティとしてグライムスに分配すること、と述べました。また、これはコラボするアーティストと同じ契約であり、罰則もない。自分はレーベルにも属しておらず、法的な縛りもないとのことです。

グライムスはテクノロジーを積極的に利用するアーティストとして知られており、NFT作品を出品したり、2023年2月にはOpenAIのサム・アルトマンCEOとの写真を投稿しています(また、以前には起業家のイーロン・マスク氏とパートナー関係にありました)。

グライムスはさらに、自らの声を生成できるAI搭載プラットフォーム『Elf.Tech』を発表しており、ローンチから2日で15000人以上が利用しているとのことです。

以上のように、著作権の問題が議論される一方、積極的にテクノロジーを利用するアーティストも登場しています。テクノロジーといえば、以前から日本では、ボーカロイドの声を利用して多くのユーザーが独自の楽曲を発表し、そうした経験から有名になったアーティストも現れています。

著作権をめぐるAIと音楽の関係は、今後も議論が続けられていきます。当ラボでも適宜情報を伝えたいと思います。

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