音に反応する細胞ーー「音響細胞学」とは何か

放送の様子はこちら(下記サイトでは音声配信も行っています)。
「細胞が音を出す~「音響細胞学」とは何か」(Screenless Media Lab.ウィークリー・リポート)
2020.2/21 TBSラジオ『Session-22』OA

Screenless Media Lab.は、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回は、私たちの細胞が音に反応したり、音を発しているという、細胞と音の関係についてご紹介したいと思います。

◾音に反応する細胞

通常、音は耳などの感覚器を通して脳に伝わり、そこで総合的に解釈されて音として認識されます。ですが、私たちの細胞ひとつひとつに、実は音を認識する仕組みがあった、という研究が注目を集めています。

2018年、京都大学の研究チームは、様々な種類の細胞に対して、様々な音圧の音波を当てて遺伝子解析を実施しました。すると、特定の遺伝子の働きが抑制され、そのレベルには音の大きさや波形が関係している、ということを突き止めました。またこの音は、可聴域、つまり人間が聴くことが可能な20ヘルツ〜20000ヘルツの音であり、細胞そのものが音に対して応答する、ということがわかったのです。

この研究は2018年2月、学術雑誌にも掲載されました。研究者によれば、音波によって細胞レベルで遺伝子応答が起きることを定量的に明らかにしたのは世界初の事とのことです。

この研究は、音波によって遺伝子をコントロールするシステムがあるのでは、といった事を示唆しており、今後の研究によって、音が私たちに与える影響をより詳細に理解することが期待されています。

◾音を可視化する

一方で、細胞が音を発している、といった研究もあります。これを音を意味するsonoと、細胞学を意味するcytologyを組み合わせて、 「sonocytology(音響細胞学:ソノサイトロジー}」と呼ぶ学者もいます。

また、細胞の状態によって発する音が異なる、という研究も発表されました。研究では、細胞が発する音を、サイマスコープという水滴の中に音の構造を再現して可視化する、特殊な装置を用いて観察しました。すると、健康な細胞が調和の取れた波形をしている一方、健康ではない細胞は不規則な波形をしていることが観測されています。

こうした技術は、例えば音の変化や差異から病気の早期検査を可能にするなど、様々な応用が考えられます。また外科手術に際して、音を利用して問題のある細胞を識別し、それを医師が装着しているデジタルゴーグルにリアルタイムで投影すれば、手術の支援にもなります。実用化にはハードルがあるかと思われますが、音を利用した医療技術の発展には期待がかかります。

もちろん、研究はまだ基礎的なものであり、まだまだ技術的なハードルもあります。また発展途上の研究は悪用される可能性もあるため、注意も必要です。


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