コロナウイルスを音で診断する企業をファイザーが買収ーー発展する「音声診断技術」の最前線

Screenless Media Lab.ウィークリー・リポート
2022.10/14 TBSラジオ『Session』OA

Screenless Media Lab.は、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回は、以前も紹介した音声診断技術の進捗情報についてご紹介します。

◾声で病気を診断する「音声診断技術」

人の声や咳といった音声を分析し、医療に活かす研究があります。昨今では、声からうつ病等を診断する技術をはじめ、音を医療に活用する技術開発が進んでいます。ただし、音の収集・分析に関してはプライバシーが保たれる必要があり、企業がこうしたシステムを活用することに対しては、多くの問題も指摘されていることには注意が必要でしょう。

とはいえ、人工知能を利用し、数多くの声のサンプルを分析することで正確性を増した「音声診断技術」は。ますます注目を浴びています。人工知能は、人間の声には本人の意志とは無関係に発せられる不随意運動や、微細な周波数の変化を捉えること、他人との比較が可能です。

はやくも2020年には、新型コロナウイルスの陽性患者の声サンプルを分析し、陽性か陰性かを判断することを目指した研究が登場しており、当ラボでも取り上げました。

◾新型コロナウイルス診断技術の発展

同様の研究は、現在も行われています。例えばケンブリッジ大学は、呼吸や咳の音からコロナを診断するために、「COVID-19 Sounds App」というアプリを通して、多くの人のデータを収集するプロジェクトを行っています。

次に、オランダの研究者たちは、このケンブリッジ大学の音声データを利用し、様々なAIモデルを用いた音声分析を通して、独自アプリを作成しました。一般公開はまだされていませんが、研究者によれば、診断には1分とかからず、89%の確率で陽性者を判別。陰性の判定(特異度)も83%で判別可能で、抗原検査よりも精度が高いとのこと。一般公開に期待が持たれています。

中でも注目すべきは、オーストラリアの研究です。クイーンランド大学からのスタートアップ企業「ResApp」という企業は、10年に渡り、患者の咳の音から呼吸器系の疾患を診断するアルゴリズム開発を行っています。こちらも5回程度咳をスマホに送るだけで診断が可能な、スマホ用アプリ作成に取り組んでいます。

すでに2022年初頭の段階で、陽性診断の正確性は92%、陰性判断(特異度)は80%を記録しました。(同社によれば2022年7月、日本で咳検出の特許を取得しており、日本も市場として捉えていると考えられます)

この結果にワクチン開発で有名な米ファイザー社が興味を示し、2022年10月には、ResAppを1億7900万豪ドル(約167億円)買収すると発表。ファイザー社は、この買収はデジタルヘルス領域拡大の足がかりであり、この技術をできる限りはやく消費者に届けたいと述べています。

https://www.dailynews.lk/2022/10/10/local/288828/pfizer-pays-180-m-brisbane-company

もちろん、各国の規制当局の判断もあることから、こうした技術の早期実用化が実現するかはわかりません。ですが、確実に研究は進んでいるほか、ファイザーによる買収のように、大きな金額が動いているビジネスであるのも事実です。

もちろん、声を利用した検査が主流になるかどうかには疑問があるでしょう。しかし、PCR検査をはじめとした新型コロナウイルスの診断には、検査キット等が必要になります。一方、発展途上国の中には経済的な要因から、病院での検査やキットの流通が困難な国もあります。

しかし、音声診断技術はスマホアプリなど、負担のない方法で検査が可能になります。また、スポーツ観戦やコンサートなど、人が多く集まる会場の簡易検査としてもの利用も可能でしょう。もちろん、音声診断が世界のスタンダードになる可能性も考えられます。

さらに言えば、感染症はコロナに限りません。今後も同様の感染症が流行した場合、ひとつの手段として、音声診断技術は重要な意味を持つと考えられます。

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