人は低音を聞くと踊りたくなる?ーー「超低周波音がもたらす効果」の紹介

2022.12/23 TBSラジオ『荻上チキ・Session』OA

Screenless Media Lab.は、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回は、音と人間の動きに関する、興味深い研究を紹介します。

◾低音を聞くと踊りたくなる?

人は音楽に合わせて踊ることがあります。では、私たちはどんな時に踊りたいと思うのでしょうか。この点について、カナダはマックマスター大学の研究者たちが2022年11月に発表した論文に、興味深い内容が示されています。以下、この研究について紹介します。

まず、様々な先行研究によれば、音の中でも人が動きたくなるような音は、低周波音(low frequency sound)、つまり低い音に多い傾向があります。また、低音は高音と比較しても、知覚や動作のタイミングに関して強い神経反応をもたらすことがわかっています。つまり、低音と私たちの動きに関する関連性は強いのです。

また低周波音は聴覚だけでなく、振動触覚(vibrotactile)や、平衡感覚などを司る内耳の前庭系(vestibular)でも処理が施され、音への快感(グルーブ)が高まり、音楽のリズム知覚が調整されるとのことです。

要するに、これまでの研究からも、低周波音はリズム感覚や人の動きに大きく関連することがわかっているのです。そこで今回の研究はさらに、人間が知覚できないレベルの超低周波(very-low frequency :VLF)を流しても、人が踊りたくなるかどうかを調査しました。

研究では、カナダで開催されるEDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)のコンサート会場にVLFスピーカーを設置。研究に同意した43人の参加者に動きをモニタリングするヘッドバンドを装着してもらいました。そして、2.5分ごとに超低周波(VLF)のオンとオフを繰り返し、超低周波が流れている時とそうでない場合の人の動きを観測したのです。

研究の結果、超低周波を流した場合、平均で11.8%も多く人が動いていたことがわかりました。つまり、実際に音が聞こえていなくとも、人は超低周波を感じることで、動きたいと感じることがわかったのです。これには、自らは意識しなくとも、振動感覚や前庭系が無意識に反応した結果である可能性が指摘できるでしょう。

ちなみに、本当は超低周波を参加者が聞いていたのではないか、という疑問を払拭するために、実験後、改めて参加者に超低周波音を含んだライブ映像と、超低周波音を流さないバージョンのライブ映像を見比べてもらった結果、両者に差異を感じなかった、という回答も得ています。

◾低周波音を活用した設計

では、なぜ低周波音に私たちは動きとして反応するのでしょうか。この点については未だに解明はされていません。しかし、私たちの機能を解明するためにも、音と私たちの関係についての研究が続けられる必要があるでしょう。

また、こうした研究を踏まえれば、私たちの動きを活発化したい時には、低周波音や超低周波音を適切に利用する方法も考えられるでしょう。それは運動に限らず、社交の場など、様々な活用が考えられます。音と人間の動きに関する関係については、基礎研究と同時に、その応用についても様々な方法を検討してもよいでしょう。

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