バッテリー不要の水中カメラが海の調査等を可能にするーー「音波を利用した最新技術」の紹介

2022.12/16 TBSラジオ『荻上チキ・Session』OA

Screenless Media Lab.は、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回は、電源不要の水中カメラなど、「音波」を利用した技術について紹介します。

◾電源不要の水中カメラ

電気をめぐっては、様々な課題が指摘されています。温暖化問題等によってクリーンエネルギーによる発電が議論される一方、昨今の燃料高騰による電気代の高騰も議論されています。

そんな中、MITの研究者は、バッテリー(電池)も電源コードも不要の水中カメラシステムを開発した研究を、2022年9月に「nature」に掲載しました。水中カメラはこれまで、船から電源ケーブルをつなげるか、こまめにバッテリーを交換する必要がありました。したがって、深部に行けば行くほど、多くの撮影は困難です。また研究者によれば、海の95%以上は未だ観測されていないことが推測されるとのことです。

そこで研究者たちは、水中の振動、つまり音波を電力に変換する「変換器」をカメラに取り付けます。この音波は、船のスクリューであれ何でも構わず、水中に絶えず生じる振動があればよいのです。また、カメラは撮影に必要な電力も極力抑えた省エネ仕様になっています。

こうして撮影に必要な電力を確保する一方、研究では撮影したデータを外部に送信する方法も考案しました。まず、電波や光といった方法で外部にデータを送信するには、撮影に利用する電力とは比べ物にならないほどの電力を必要とします。

そこで研究では、カメラからではなく、水面に設置した送受信機からカメラに音波を流し、カメラはその音波を反射させる、という方法を採用することで、電力消費を極力抑えたということです。この方法で、現在のところ受信機から水深40メートルまでのデータを送ることに成功しました。

この距離を伸ばすことなど、まだまだ課題はありますが、電源不要の水中カメラは何週間も海底での撮影が可能なため、将来的には遠い海域での新種探索や、海洋汚染の定点チェック、あるいは養殖の魚の状態のモニターなど、様々な利用方法が考えられます。

このように、音波を利用した研究は、非常に重要な意味を持っているのです。

◾私たちの生活にも音波サービスが浸透する?

一方、私たちの生活にも音波を利用したサービスが登場しつつあります。

例えば、Shower Power(シャワーパワー)という製品は、水力だけで動く防水スピーカーです。シャワーヘッドとホースの間に取り付けることで、シャワーの水圧で発電し、水を流すとスピーカーから音楽が流れるという仕様です。

また、アンドロイドアプリの「AquaApp」は、音波を利用し、水深15メートルの環境で、メッセージのやりとりを30メートルの距離間で可能にするものです。水中ではBluetoothやWiFiのシグナルが途切れがちなため、水中でダイバーがやり取りをする際には、こうした音波の利用はアクシデントに対応するためにも重要です(ダイバーのハンドサインの代わりにもなるでしょう)。

このように、音波を利用したサービスは主に水に関する領域で行われています。今後も様々な領域で利用が期待されている音波について、当ラボは今後も注目していきます。

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