咳の音で新型コロナウイルスの診断が可能にーー「音声診断技術」の最前線

放送の様子はこちら(下記サイトでは音声配信も行っています)。
「咳の音で新型コロナウイルスの診断が可能に?!〜音声診断技術の最前線」(Screenless Media Lab.ウィークリー・リポート)
2020.11/13 TBSラジオ『Session』OA

Screenless Media Lab.は、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回は、音声で新型コロナウイルスなど、様々な病気の診断を可能にする音声診断技術についてご紹介します。

◾音声診断技術の発展

声を利用することで、様々な病気を発見するための手法が開発されています。例えばうつ病を早期に診断するため、多くの声のサンプルを人工知能に分析させることで、声だけによる診断を可能とする技術開発が進められています。声はストレスなどその時の状態によって変化しますが、コンピュータは本人の意志とは無関係に生じる不随意(ふずいい)運動を捉えるため、意志で声の状態を変化させることは難しく、また声の周波数や特徴量の細かな変化を見逃しません。さらに多く声のサンプルとの差異から、異常を検知します。

もちろん、声だけですべてを診断するのではなく、現状ではあくまで診断の補助ツールと捉えられていますが、こうした技術は認知症やパーキンソン病などの診断にも使われています。声を発するだけで補助とはいえ精度の高い診断が可能になるとすれば、声を収録してデータを送るだけで自宅から行えるなど、病気の早期発見にとってかなり効果が期待できるのではないでしょうか。

◾咳でコロナの診断ができる?

このような声による診断技術について、近年驚くべき研究が公開されました。2020年9月末に、米電気電子学会(IEEE)という世界的に権威のある学会で公開されたMITの研究チームによる論文では、咳の音から新型コロナウイルスの陽性者を判別するという技術が発表されました。

MITは2020年4月から数十万の咳のサンプルからなるデータセットを構築しています。その上で、コロナ感染者の音声数千件をAIで学習したことで、診断を可能としました。診断のポイントとなる点は、声帯の強度、肺と呼吸器系のパフォーマンス、筋肉の変異、音声の感情面などで、その精度は症状のある感染者の98.5%、無症状者では100%を特定できたとのことです。

すでに研究チームは企業と協力してアプリ開発に着手しており、FDA(米食品医薬品局 )の審査に合格すれば、自宅にいながら声だけで多くの情報を得ることが可能になるでしょう。とはいえ、ひとつの研究結果からだけでは十分とはいえず、さらなる検証実験は必要であり、こちらもあくまで「診断の補助」であるという側面は忘れてはなりません。

もちろん、音声データが健康価値を持つということは、スマホに収録される声のセキュリティも重要になります。また、企業が従業員の音声を勝手に診断して従業員に不利な決定を行うことなど、注意すべき点も生じるでしょう。

とはいえ、音によって様々な病気の診断が可能になるとすれば、生活の質を向上させることは間違いありません。加えて、定期的な声の収録によって、一部で健康診断の役割も担うことができるでしょう。音は医療の分野にも貢献可能なのです。

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