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花冠はミートボールを装備した


 命の価値が平等でないのならば、価値のない命は取り返しがついて然るべきだ。


 屋根が崩れかかって日光が差し込む廃墟に、女は土足で踏み込んできた。床に寝転がっていた酷く肥満した男の足を無造作に掴むと、脱ぎ捨てた服をずぼらに放り投げるような雑さで背後に投げ飛ばした。

 戸口に現れた黒スーツの男三人が、飛んできた肥満体に潰され血反吐を吐いて死んだ。太った男は床に落ちて首が折れたが、首はすぐに正常な位置に戻った。

 「あら、頑丈なのね」

 女が小首を傾げた。長く乱れた黒髪やヨレヨレのジャケットにジーパンが、堕落した人間性を表している。

 「何もしないでいたら、いつの間にか死ななくなってた」

 男は答えた。風体は浮浪者そのままだが、肥満体の肌艶は良かった。

 「丁度よかった、私に使われてちょうだい。手持ちの武器がなくなって困ってたのよ」

 「構わんが、俺に価値あることをさせれば、すぐに壊れるぞ。無価値だから直るんだ。建設的な会話も良くない」

 「なら平気よ。私はロクデナシだから。ろくでもないことにしかあんたを使う気はないし、下らない話しかしない。まずは博打の借金を取り立てにきた連中を片付けるのに使うわ」

 「なるほど、大丈夫そうだ。あんたがロクデナシでいるうちは、壊れない武器でいられるだろう。好きにしなよ」

 「私は花冠。あんたは?」「前に俺を使っていた奴はミートボールと呼んでた」「酷いネーミングセンスね」「花冠だってそこそこ酷い」

 花冠はミートボールをひょいと担ぎ上げると、廃墟の壁に叩きつけて空けた穴から外へ踏み出した。そしてミートボールを無造作に蹴り上げた。廃墟上空に迫っていた戦闘ヘリにミートボールが命中して墜落させた。落ちて地面に激突したミートボールを、花冠が拾い上げた。

 「取り立て屋があんな物まで持っているのか」「あれは私が薬代踏み倒すために売人を殺した麻薬カルテルの方ね。とりあえず、取り立て屋の方を優先するわ。近いから」

【続く】

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