レバノンで今おきていること（４）社会が大きく変わる時のアートの役割

レバノンは中東のアートハブとも言われ、美術館やギャラリーが多くあります。レバノンの美術業界の今回のデモに対する反応は、社会におけるアートの本来の役割を明確に体現したものでした。

デモがはじまって１週間目、スルソーク美術館という現代アートの中心的な美術館など、19のアート・カルチャー団体が無期限でのストライキをおこなうという声明を共同で発表しました。全文はこちら。

一部を抜粋の上ざっくり訳します。

レバノンの文化セクターによるオープン・ストライキについての声明

レバノン全土で行われている既成権力に対する民衆蜂起に連帯し参画するため、以下に署名する文化組織・機構はオープンストライキを実施し、文化セクターの同業者に対して協働を呼びかけます。

アートと文化はすべての社会において統合的な存在であり、大変動の時期においては創造性と批判的思考を拡げることが不可欠です。このため、ストライキはアートと文化を現状から引き離すのではなく、「通常営業」を停止します。（略）ストライキの期間中、アート業界の同業者と協働しこのムーブメントへの貢献を考案します。私たちは、急進的な想像力を土台に構造的・制度的変化をもたらすことを夢みて、思考し、戦い、具象化しようとする国家、地域、グローバルな願いの一員です。ストリートで会いましょう。（2019年10月25日）

STATEMENT ON OPEN STRIKE IN THE CULTURAL SECTOR IN LEBANON
In solidarity with and participation in the popular uprisings taking place across Lebanon against the current systems of power, we the undersigned cultural organizations and structures collectively commit to Open Strike, and call for our colleagues in the cultural sector to join us.
Arts and Culture are an integral part of every society, and the expanded space of creative and critical thought is imperative in times of upheaval. The strike is therefore not a withdrawal of the arts and culture from this moment, but rather a suspension of “business as usual.” ...While on strike, we are connecting with colleagues across sectors and groups to formulate together what we can contribute to the movement. We are part of a national, regional and global desire to dream, think, fight for, enact and embody radical imaginations leading to structural and systemic change. See you on the streets.
October 25, 2019

瀬戸内芸術祭、大地の芸術祭などのディレクターとして著名な北川フラムさんは「美術は本来、その時代における大変な課題や矛盾を、自然と文明・人間の関係性において表現する『技術』なんです」とおっしゃっていますが、レバノンの美術業界は、美術の役割を「創造性と思考を拡大すること」であるとし、今まさに大きく動いているレバノン社会と人々の関係性の変化を美術の力で後押ししようとしています。そして、想像力を土台に構造的変化を具象化しようとする一員であるという宣言で結んでいます。（最後の「ストリートで会いましょう」という一文も勇気を与えます）

最近は極端に商業ベースで動いているアート団体が多い中、人々の動きに反応し、自分たちが担っている役割に誇りをもって方針を打ち出したレバノンの美術セクターに驚きと尊敬の気持ちを持ちました。

ちなみにスルソーク美術館ではフランスのピカソ美術館などから作品を借り受けてピカソ展を開催中で、連日賑わっていた最中の出来事でした。

画像：The Fouad Debbas Collection