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北欧パッケージのミカタ 消費者・生活者

北欧のスーパーに行ったことはありますか?食品の中身は日本と同じはずなのに、パッケージデザインは明らかに違うんです。この違いは何なんだ!!

今回は顧客(ユーザー)という切り口でパッケージを考えてみます。

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主観を入れて簡潔にいうと、日本は商品棚で主張する消費者目線のデザイン、北欧は食卓になじむ生活者目線のデザインが多いと感じました。(どちらが正解、不正解という意図はありません)。


ざっくり言うと(要約)

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これまでの主流のマーケティングモデルは、「消費行動」である購入後のことより、「購買行動」である購入時に重点が置かれていました

日本の食品パッケージを観察すると、購入時にいかに際立たせるかという「消費者」視点を多く感じました(購買行動

北欧の食品パッケージを観察すると、使用時にいかに食卓を彩るかという「生活者」視点を多く感じました
(消費行動)


マーケティングは売上至上主義

まず、顧客(ユーザー)について調べてみることにしました。マーケティングの文献を読んでみると、消費者行動での「購買行動」、「消費行動」というキーワードに引っかかりました。

消費者行動は、「購買行動」= 商品の必要性を認知してからその商品を購買するまでのプロセスと、「消費行動」= 購買した商品を使用してから廃棄するまでのプロセスからなっています。

既に半世紀を超えたマーケティングの消費者行動研究を振り返ると、顧客に前向きな購買決定をさせることに注力してきました。目標売上が達成されるか否かという市場の反応は、顧客が購入物を好んだか否かを評価できるためです。

その背景から、これまでの主流のマーケティングモデルは、「消費行動」である購入後のことより、「購買行動」である購入時に重点が置かれていました。

今日のマーケティングでは価値共創という概念が提唱され購入後に注目が寄せられるようになりました。皆さんも感じられているかと思いますが、最近は購入後のことも考慮した商品も増えています。


牛乳のパッケージデザイン

世界各地のスーパーの商品棚には、それぞれの文化や思想が映し出された商品が多く並んでいます。それらのパッケージデザインには、その国の日常生活としての食文化だけでなく、デザインに対する考え方も垣間見えます。

さっそく、北欧の牛乳パックを見てみましょう!

スウェーデン

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ノルウェー

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フィンランド

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北欧のパッケージいつ見てもカッコ良すぎてしびれる、、毎日買い占めたい。


日本と北欧のパッケージデザインを比較してみます!

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写真の牛乳の例で言うと、左の二つが日本でおなじみの商品、右の二つがスウェーデンの商品です。(事例として恣意的に商品を選んでいます)。

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日本の食品パッケージを観察すると、文字にインパクトがあり、購入時にいかに際立たせるかという「消費者」視点を多く感じました(購買行動)。

日本のパッケージデザインは店頭で顧客に心理戦をしかけてきます。2秒で買うものを決めると言われるようなシビアな勝負です。商品棚で主張するクレバーなコピーやPOP広告、シズル写真等をうまく駆使して、顧客の財布の紐を緩めようと試みます。店頭で顧客が足を止めて、手にとって、カゴに入れてもらうのが一つのゴールです(実際のところ低価格商品の場合、デザインでなく価格に左右されれることが多いとは思います)。売上が多ければ多いほど、顧客が購入物を選んでくれたと理解するわかりやすい考え方です。これって、マーケティングの世界では至極まっとうな手法です。

そして、ここからが本題です!
北欧は日本と異なる切り口で攻めてきます!

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北欧の食品パッケージを観察すると、イラストにインパクトがあり、使用時にいかに食卓を彩るかという「生活者」視点を多く感じました(消費行動)

北欧のパッケージデザインを見ると、何といっても中身がわかりにくいんです!日本より商品名の文字のサイズが小さいものがほとんどです。牛乳パックは形状ですぐ中身を想像できますが、ただの直方体の箱の食品パッケージだと、おしゃれなデザインなんだけれども中身は全く想像できないというデザインも存在します。

北欧のパッケージデザインは顧客の使用満足度に着目していると思います。商品棚では目立ちにくく訴求要素が少ないので、即時的な売上増加は難しいかもしれません。使用満足度が高ければリピート購入者が増えるだろうという考え方だと思います。家での暮らしを重視する北欧のライフスタイルを反映しているような気がします。上記写真の様子をみるとパッケージは食卓の雰囲気になじんでいます。商品やブランドを長く愛してほしいという意図が伝わるデザインだと感じました。

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売れる商品というものを、仮に「多くの人に短く愛される」と「少ない人に長く愛される」という二項対立で考えたとするとどう捉えられるでしょうか。どちらか選ばないといけないとしたら、日本のパッケージデザインは前者「多くの人に短く愛される」、北欧のパッケージデザインは後者「少ない人に長く愛される」の傾向が強いと思っています。どちらが持続可能で成熟した社会なのでしょうか。

ちなみに、スウェーデン人のパッケージデザイナー(大学教員)との雑談で見解を聞いてみたところ、「自分にとっては当たり前なのでこれまで考えたことはなかったけれど、言われてみればスウェーデンのパッケージデザインは使用時を考えているように思う」とのことでした。また、「日本は賑やかな商品棚」、「北欧は静かな商品棚」と表現していました。

繰り返しになりますが、どちらが正解、不正解ではなく、現地で定点観測をしてきた中で、そのような傾向がみられたという分析です。そして全ての商品に当てはまるわけではありません。

ローソンのパッケージデザイン戦略

ローソンのPB(プライベートブランド)のリニューアルデザインには賛否両論あるようです。店舗での視認性の低下が気になるようで、どちらかというと否定的な意見の方が多いのではないでしょうか。

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nendoのofficial home pageには、下記のような説明があります。

・購入後の生活空間に入り込むノイズが減るように配慮した
・日常生活にわずかながらの豊かさをもたらすことを願ったプロジェクト

これまで、日本のメーカーは、多種多様な製品を頻繁に市場に投入することで、ヒットする製品の数を確保してきました。そして、日本のユーザーは「消費者」目線のパッケージデザインにどっぷり浸かってきました。

今回、大手流通であるローソンが、棚落ちしない自分たちのPB商品棚を使い、長期戦略をもって「生活者」目線のパッケージデザインを採用したことは、非常に大きなインパクトがあります。メーカーでなく、流通だからこそ実現可能な方法です。これから5年後の日本の食品パッケージデザインが非常に楽しみです。


Instagramの影響

依然、日本では「購買行動」を考慮したパッケージデザインの割合は大きいものの、「消費行動」を意識するきっかけとしてInstagramなどのSNSは大きな影響を与えていると思います。(写真として見栄えのよさを意味するインスタ映えという視点があります)。

一方、北欧に関して。例えば、Instagramの初版リリースは2010年(日本語版リリースは2014年)ですが、食卓を彩る北欧の素敵な食品パッケージデザインは、少なくとも僕が初めて訪問した2007年にはスーパーに浸透していました。SNS(インスタ映え)とは別のところにデザインのヒミツがありそうです。興味深い!


いろんなミカタで北欧のパッケージ を考察していきます。
Tack!パッケージって楽しい!


・画像出典 / 参照
Arla Sweden https://www.arla.com/
Arla Sweden https://www.packagingoftheworld.com/
Arla Sweden https://www.food-supply.se/
Arla Finland https://www.behance.net/
TINE https://cretalux.no/
Lawson https://www.lawson.co.jp/
nendo http://www.nendo.jp/

<本文補足> 牛乳のパッケージの比較事例には、2016年に一般市場に流通している中で、メーカーの規模から主製品と考えられるものを合計4点選定しました。牛乳は一般的に中身の差別化が難しく、どの国の商品でも中身の期待値はほぼ同じと思われるので、外見(パッケージデザイン)のみを比較しやすいと考えました。また、食料インフラ的な側面もあり利益の出にくい構造のため、業界の寡占度が高く、製品の種類が他の食品と比べると比較的少ないと考えています。
消費者行動は、「購買行動 = 商品の必要性を認知してからその商品を購買するまでのプロセス」と「消費行動 = 購買した商品を使用してから廃棄するまでのプロセス」からなっている。
村松潤一, 価値共創とマーケティング論, 2015
消費者行動のWhy(消費者はなぜ購買するのか)、What(消費者は何を購買するのか)、How(消費者はどのように購買するのか)に焦点を当てた研究の流れであり、互いに影響し合いながら、現在に至る消費者行動研究の骨格部分を形作ってきた。中でも、消費者情報処理理論に代表される意思決定過程に関する研究は、ある意味で消費者行動研究のメイン・ストリームを形成してきたとも言える。
青木 幸弘, 近年における消費者行動の変化と研究上の課題, 2013
今日のマーケティング研究において、価値共創という新たな概念が提唱され、市場取引「時」でなく、市場取引「後」における企業と消費者の関係に注目が寄せられるようになってきた。
村松潤一, 価値共創とマーケティング論, 2015





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