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「もう貯金しません」という「反節約」「反倹約ムード」が社会現象になっているわけ


35歳未満の世代の45%が「貯金やめる」

貯金するのをやめる。そして支出を増やすことで、自分のやりたいことや冒険的なキャリアを追求していこうとする「アンダー35」世代(35歳未満の世代が急激に増えてきていると、ニューヨークタイムズ(The New York Times)が2022年5月に報道した。

未来へ失望する「アンダー35」世代

その報道によると、大勢の「アンダー35」世代が、無難な生き方を放棄し始めているという。

『ブラウン・ガール・マガジン』の編集者であるニマルタ・ナランさん(27)は、新型コロナウイルスが大流行している間、家族が住むバンコクに帰ることができなかった。ようやく帰省を果たしたとき、自分が立ち会えなかった家族行事の多さに、彼女はあらためて愕然とした──母の50歳の誕生日、祖母の葬儀、妹の婚約式、父がいつの間にか白髪になっていたことなどだ。

ナランさんは、生まれてこのかたずっと「何事にも石橋をたたいて渡るタイプ」だった。しかし、昨年末に突如として「用心ばかりしながら生きるなんて、もうイヤだ」と悟ったのだという。

「アメリカに戻ってきて、これまでとは違う生き方をしようと決めました」彼女はかねて、ニューヨークに住んでみたいと思っていた。そこで、ロサンゼルスのアパートを引き払い、3月に引っ越しをした。

さらに、家計の面でも改革を行う。コロナ前は月に2000ドル(約22万円)ほど貯金していたが、いまはその半分ほど。残りは、家賃の高いアパート代(月7万円も増えた)、友人との夜の外出、以前なら我慢していた小さなぜいたくなどに充てている。

「貯めたお金を経験に変えたかったんです。帰省をきっかけに、自分がいかに人生を楽しんでいなかったのか気づきました」という。

「反節約」「反倹約ムード」が蔓延

世の中には「反節約」「反倹約ムード」が蔓延している。そんなケースは特殊ではない。フィデリティ・インベストメンツの最近の調査によると、18歳から35歳までの45%が、「世の中がノーマルに戻るまでは、貯金しても意味がない」と考えていることがわかった。

さらに、同じ年齢層の55%が、老後に備えることをいったん保留にしていると回答した。

ナランさんのように、パンデミックがもたらした孤立をきっかけに、経済的な事情は脇に置いて、いまを楽しもうと決心した人もいる。

あるいは、気候変動、ロシアのウクライナ侵攻、アメリカ国内の政情不安、インフレの急伸、高騰する住宅価格、乱高下する株式市場といった諸問題への懸念がきっかけになった人もいる。

不安定な社会情勢により、「未来に備える」インセンティブが失われているのだ。

「老後の備え」に意味はあるのか

「貯めずに使う」という風潮は、2022年の若者に限った話ではないと指摘する専門家もいる。

1930年代の大恐慌のときも、多くの人が銀行への信頼を失った。冷戦期には、核戦争への恐怖が若者の将来設計に影響を与えた。2008年の金融危機では、多くの人が住宅資金を貯めることが無意味だと感じるようになった。

「人間とはもともと、貯蓄するよりも消費したがるもの。もし、いまよりも未来のほうがよくなると信じていれば、みんな熱心に老後のための貯金に励むだろう。しかし、未来は暗いと思うのであれば、誰も貯金をしたいとは思わない」と社会学者たちは口を揃えていう。

老後のためにかける年金も同じことだ。
「60歳になるまで手を付けられない口座にお金を積み立てるなんて、よく考えるとどうかしてますよね。それって2056年ですよ! そのころには、気候変動であらゆることが変わっているはずです」とインタビューに答えた大学院生はいう。

「これだけ物件が値上がりしていると、貯金のために時間とエネルギーをつぎ込む価値があるのかどうか、わからなくなってきます」そんな声は日に日に増大している。

これはニューヨークタイムズの記事だが、日本でも多かれ少なかれ、同じ現象がみられるといってよいだろう。

初任給の使い道

仲のよい友人の長女がこの春卒業して、新しい会社で働き始めた。初任給の使い道をたずねてみると、親から独立して一人暮らしを始めるための資金にするという。

親と一緒だと、好きなようなインテリアも選べないし、だいいち窮屈。雑誌に出てくる部屋のような、すっきりと自分らしい部屋を持ちたいのだそうだ。

「貯金は?」とたずねると、笑いながら「しないよ〜」と答えた。

毎日新聞が新卒のサラリーマン、サラリーウーマンに行った調査によると、初任給の役半分を「貯金する」と答えた人は約 15%。

すでに計画している「友達と行く旅行に使う」や「食べ歩きに使う」がもっとも多く、日本でも貯金離れが進んでいるようだ。「これまで欲しかったものを買う」は圧倒的に多く、ここでも「貯金」から「消費」への自然な流れがうかがえる。

これからもお金の使い方、給料の使い道は、これまでの世代のものと大きく違ってくるだろう。

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