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こんな死に方もいい

人の死を目の当たりに見ることは、今日ではほとんどない。けれどインドなどに旅すると、道端で死んでいる人や、死んでいる人をみんなで頭上に抱えて弔いの場所へ向かうという光景を目にすることがある。

日本でも昔は死がもっと身近だった。
布団の中で横たわって死んでいく老人を家族が囲んで、別れを惜しむというような風景があった。

それでこんな話しを思い出したことがある。
布団に横たわって死んでいくおばあちゃんを家族がみんなが見守っている。

家族で死に水を取ってやろうということになった。
「死に水」とは、死に際の人の唇を水でしめしてやるという行為で、臨終の弔い(とむらい)の儀式のことを指す。

さて、水に浸して唇をしめらすための綿が、どこにあるのかという話しになった。家族の者たちが、その話しをしていると、突然、死にかけのおばあちゃんが、「タンスの3つ目の引き出し」と言った。

なるほど、引き出しを開けて見ると、確かに綿が入っている。
おばあちゃんは、そこで息たえてなくなったのだという。

嘘のような話しだが、こんな死に方は、後々みんなの話しのタネになって、なんだか微笑ましい。寿命をまっとうした、しっかり者のおばあちゃんの生き方が伺えるようである。



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