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【開催レポート】これからのスポーツ業界におけるキャリアの築き方

特別対談「これからのスポーツ業界におけるキャリアの築き方」を
スポーツの可能性を幅広い視点でみてこられた転職サービス「doda」の編集長でスポーツヒューマンキャピタルの理事でもある大浦征也氏、スポーツコーチングJapanの中竹竜二氏が登壇しました。

オリンピックの開催によって、より注目を浴びるスポーツ界とビジネス界への影響の両方の視点から
スポーツとビジネスの壁を超えた話が、繰り広げられました。

セカンドキャリア時代のスポーツ支援の苦労

中竹:今日のテーマにふさわしい、大浦さんにお越しいただきました。自分の生き方、人生にとっても大きな気付きがあると思いますので是非聞いて考えてください。では、大浦さんに今どういったことをやっているかの前に、どういうことをやられてきて今にいたるのかというお話をご紹介していただきたいです。

大浦:皆さんはじめまして、パーソルキャリア株式会社で、「doda」といったほうが馴染みがあるかもしれませんが、そこでdoda編集長をしています大浦と申します。「doda」の編集長という意味でいうと転職支援を行っていますが、スポーツということに関しては公益財団法人スポーツヒューマンキャピタルという団体で活動しています。何をやってきたかというと、私自身もスポーツ、野球をやってきたのですが、指導者に恵まれなかったこともあり、野球業界を変えたいと思い。また、所属している会社がオリンピックのスポンサーなどをやっていたこともあり、アスリート支援を15年前から続けています。アスリート支援をしていく上で指導者(運営している人)に変わって貰う必要があると感じたので、球団改革、協会改革をしています。スポーツヒューマンキャピタルは、ビジネスの力でスポーツ界を元気に活性化していこうという団体になっています。そして本業の「doda」では、「doda」の中にスポーツ支援のメディアを作って、双方向からスポーツの支援をしています。

中竹:大浦さんのように、本業と同時に、または近いスポーツ支援をやられているということもあると思うのですけども、はじめの頃は機運がなかったのではないですか。今は少し市場も変わり、オリンピックも来るということで支援をする相手も増えてきていると思います。
最初始められた頃は、相手にされない時期、批判されることもあったと思いますが、その苦労はどのようなものでしたか?

大浦:相手にされないどころか、煙たがられましたね。当時Bリーグはなく、Jリーグもいまほどキャリア支援ということに対して進んでいなかったので、私は経験のある野球から入っていっていきました。当時、古田さんが選手会長をやりながら、改革みたいなことをやられていたので、古田さんのところへ、アスリート支援をやりたいんですとアタックしていきました。もちろんJリーグにも、バスケにも行きました。ですがその頃は、「選手の夢を潰すのか?」と言われました。というのも、現役中からセカンドキャリアなど考えさせるのは、浮気心を芽生えさせてしまうものだし、競技に集中できなくなるじゃないかと、余計なことをするんじゃないと言われたこともありました。そんな中、選手の方々にはこういうの有り難いですと言っていただいたりしましたが、運営サイドの人からは引退後のことなんてイメージさせないでくれと良く言われたのを覚えています。「世の中がどうなっているのかなんて教え込まないでくれ。」つまり、デュアルキャリアという時代ではなくて、セカンドキャリアという時代だったのでファーストキャリアを邪魔するなという機運でした。

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デュアルキャリア志向へと変化する、日本のスポーツ界

中竹:2020年に東京でのオリンピックが開催されるということによってどう変わりましたか?

大浦:ビジネスサイド側が変わってきて、一部協力してくれる企業が増えました。スポーツ選手を引退後、ビジネスが成り立つくらいの知名度でないと当時は受け入れてもらえなかった。もしくは、スポーツ選手を受け入れたいのではなくて、スポーツ選手でもいい案件でないと受け入れてもらえない。誰でもいい元気な人という案件でないと受け入れは難しい状況でした。ですが、今はマーケティングでいうとアクティベーションプログラムの作り方、選手への育成もしくは協賛ということに関しての企業の見方は非常に変わってきました。デュアルキャリアということが言われてきましたが、このデュアルキャリアという研究がかなり進んだと思います。それは競技に集中することで得られるスキルが、その後のキャリアに役立つんだという考えで、ファーストキャリア、セカンドキャリアってことではなく、今の競技をやりながらにして社会との接点を持っておくという考えです。ですが本質的なデュアルキャリアというのはサッカーに打ち込むことこそが、バスケに打ち込むことこそが、その後のビジネスだとかキャリアにそのまま役に立つんだということの翻訳こんにゃく的な機能的なものだという研究が進んできました。中竹:指導者の方も、スポーツ、部活に思いっきり打ち込んでいいぞと言える環境になってきました。

大浦:以前との比較で言ったら、ずいぶんと変わりましたね。打ち込むことこそがその後に役立つという考え方がずいぶんと一般的になってきたということですね。

中竹:スポーツヒューマンキャピタルで学ぼうとする人たちというのはどういう人達が多いのですか?

大浦:非常に多くの方に参加していただいているのですが、大雑把に言うと3つくらいに分類が出来て、既にスポーツ界にいる人(指導者・クラブスタッフ)、全然関係ないビジネス界隈にいる人、あとは、自治体の方、教員の方、トレーナーの方です。

これからのスポーツとビジネスの融合

中竹:今回の参加者はスポーツを軸に仕事、人生を謳歌しようという人がいますが、意外にもスポーツとビジネスに距離があり、転身するときにはどうしたらいいのか、どっちから入るといいのか、すごく多くの方が悩むところです。スポーツヒューマンキャピタルをはじめ、「どこで学べばいいですか?」という質問に対して自分の空いた時間で学べる場があるということを、このカンファレンスを通して教えたい。結構色んな所でスポーツの選手たちに門戸を開いている、ビジネススクール系がスポーツ系の人たちにドアを開いて交流を始めましょうというのがあります。
今後スポーツ界をまたぐときに、どういう知見をつけていくことが大事だと思いますか?

大浦:ビジネス界とスポーツ界で求められることが結構近づいてきて、ほとんど同じになってきました。昔はあっちの世界こっちの世界と、ビジネス界からスポーツ界へ行くと、「あー、あっちの世界へ行くんだな。夢かなったな」というくらいになり、もう戻ってこないと思われがちでした。最近は行って帰っても含め垣根が低くなりました。キャリアの時代でなくなってきたと言えます。では、そもそもキャリアとはなにかといいますと、キャリアをラテン語で「轍(わだち)」車輪の跡、つまり歩んできた道のことをしめす言葉です。その語源からいうと、「どこの大学を出て、どの部活にはいって、どこの会社に入って、何歳で・・・」というのがキャリアです。昔は転職はキャリアの時代でありましたが、スキルで評価される時代へと変わってきています。それは、キャリアが未来を保証してくれなくなったということの現れです。スキルで評価すると、ビジネス界隈で重要なことは当然スポーツ界隈でも重要で、昔は「スポーツtoスポーツ」しかなかったが、「ビジネスtoスポーツ」も通用するようになりました。しかし、スキルというものも陳腐化している。マーケティングの専門家が、スポーツ界に行ってマーケティングをするといっても、マーケティング自体の変化が激しいので、スキルだけで転職できるわけではありません。それはつまり、組み合わせやコラボレーションの時代になってきたということです。その人が一人スポーツ業界に入ることで、どれくらいネットワークを持ってこれるか?どれくらいのつながりを作れるか?ということが、とても重要になってきていていて、ネットワークを多く持っている、コラボレーションをできるひとがスポーツ界に入りやすいと思います。

中竹:イングランドはいろんな競技が非常にうまく行っている。イングランドのラグビー協会は、半分くらいはラグビー経験者はおらず、さらに女性が多い。アクセンチュアのような団体。完全なるマーケティング部隊、そんななかにコーチが普通に働いていて、一緒にマーケットを考える。日本だと、〜協会だとその競技・分野の専門が多くいる印象ですよね。
私はスポーツとビジネスとの違いはあると思っていなくて、人がやっていく中でたまたま競技がスポーツだった、ビジネスだった、ということがようやく融合、当たり前になってきたなと感じています。

大浦:野球でも、サッカーでも、バスケでも、スポーツ系のマネジメント、監督というのは基本原則絶対にその競技をやっています。名選手は監督にはならないとか、選手時代は大したことなかったが監督としては成功ということはよく聞きます。でも、いずれにしてもその競技はやっています。ということが普通ですよね。ビジネスにおいては、その職種やったことなくてもマネジメントやるとか、その業界関係ないんだけど社長をやるとかいったことがありますよね。映画界がまさにそうで、もともとカメラマンなんだけど映画監督、もともと俳優なんだけど映画監督などといったことがよくあります。サッカーの監督をテレビ局の人がやってもいいし、広告代理店の人がやってもいいんじゃないか?ただ、絶対に今の所ありえない。ビジネスの世界なら異分野にいってマネジメントなんか当たり前の話。サッカーで言えばバルセロナがすごいなと思うんですよ。下部組織から上がってきた選手や、南米から何億ものお金をかけて連れてきた選手、色んな国から選手を集め、いろんなダイバーシティがある。バルサにいる目的も違う個人個人がいるのにもかかわらず、チームとして束ねてバルサとして一つのマネジメントをしている。これはビジネスと一緒だと思う。本当はスポーツ界もビジネス界も一緒。サッカーの経験者がラグビーのコーチをやってもいいはずです。

中竹:コーチを辞めたら、違う競技の監督とかになってほしいと思っています。早稲田大学のラグビー部の元監督である清宮さんなんかは、なんでもできると思うんですよ。プロ野球のチームを持ってほしいななんて思っています。ほぼ教えることは一緒なので、もう少し当たり前になってほしいと思います。

大浦:40代前後の人たちは、「体育会=コミットメント、タフです」みたいなのが強いとされてきた。“地震”と言う言葉に例えると、耐震構造だった。強い。揺れに負けない。折れない。時代が“耐震構造”では無理で、今は“制震構造”。揺れに対して揺れを加えて揺れを吸収する、ビジネス用語でいうとレジリエンス(復元力)、さらにいうと免震力になってきている。この大会に負けても、どれだけ早く立ち直らせるか。いかに安定した心身の状態でパフォーマンスを発揮させるというような、そういう揺れ自体を、ストレスをうまくコーピングするというようなことをしたい。これはものすごい高度なマネジメントであると思います。そうしたときに競技関係ないなとか、スポーツとビジネス関係ないな。スポーツ界で優秀なトレーナーは、ビジネス界では圧倒的に優秀なマネージャーになる。

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壁を超えた弱いつながりの強さ          

中竹:これからの組織はいろんな人を入れるべきですね。コーチデベロッパーの世界でも野球の人はいないんですよ。サッカー、ラグビー、バスケといった競技はかなり進化しています。ですが、野球が遅れているというわけではなく、野球は独自に進化しています。野球は世界スポーツではなく、アメリカンスポーツで特殊な進み方をしています。大リーグで驚いたのが、メジャーは完全にGM制度をつくったところです。そのGMの下に、パフォーマンスディレクターという一貫性を保つポジションがしっかりとあり、このポジションの人達は競技とほとんど関わりがない人。しかも女性が多いということです。
女性が多く関わり、コーチングについて発言するし、選手の採用もする。
最近、メジャーでもマインドフルネスをチームに導入しているところも増えてきている。脳科学エキスパートチームを入れるところも増えてくると思います。企業にマインドフルネスを入れたりしている。
スポーツの中でも、スポーツの人だけでも勝てないというのが現状ですね。

大浦:昨今、ビジネス界ではイノベーションと良く言われている。イノベーションとは、新結合ということです。今までなかった、あり物とあり物の結合。例えば、データ×スポーツ。Tech×スポーツ。ダイバーシティを受け入れるだけで、競技レベルが上がる。競技の収益力が上がったりということが起こり、今後ますます加速するだろうと考えています。

中竹:頭でやって、こうするとイノベーション起こるかなというのはうまくいかない。「よくわからないけど、やっちゃいました」という方がうまく行く。壁を超えたテーマをやることの重要性。
頭で考えるよりも、偶然を掛け算してなにかできないかな、というのが本当のイノベーション。これが、私たちが望んでいる壁を超えるということです。

大浦:昔は人脈がないとスポーツ界には入れなかった。弱いつながりの強さ。弱い人脈のほうが強い力を発揮することが多い。これには2つの理由があり、あまり完成が近すぎると仕事がやりづらくなることと、気心知れた範囲では、想像した範囲を超えないということです。弱いつながりの強さは、初めて話したぐらいがいい。教育者は人脈は作りづらくなるかもしれませんが、Facebookでつながっているくらいのつながりを持っていることが、いつか何かを変えるきっかけを持つはずです。

中竹:弱いつながりが、きっかけを生んだり、気づきを与えたりする。気づきを与えるのは第三者のほうが良かったりする。フィードバック理論。すごい近い人から言われるよりも第三者から言われたほうが話を聞く。たまたま隣りに座ったということが社会のイノベーションに繋がるかもしれませんので、大事にしていただきたいです。

大浦:転職においても昔は、転職するぞと決めて人材会社に登録して、頑張って転職活動していたが、最近は登録だけでもしておこうという人が増えてきています。SNSだけで繋がるといったことが、何年後には弱いつながりはものすごい財産になる。

中竹:長いスパンを見たほうがいいですね。今回会場をお貸しいただいたガイアックスさんは、入社して6-7割は起業する。というのは、採用する側としては、雇う、雇用者ではなく投資先と考えている。そういったコンセプトでこういう場をお貸しいただきました。マーケット視点ですね。長いスパンで見たときに、実は従業員だったのがそこから育って、自分たちが投資し一緒にビジネスをやるかもしれないという可能性を持ちながら組織を作っています。そうすると見方が変わりますよね。使い倒そうと思うか、いい関係作って育てて稼いでもらうぞという意識になるか。そういう意味でいうと、今までちょっとした関係だったのが、そこに意味が現れるかもしれない。とりあえずやっておこうよといったような、ゆるやかなつながりが良いかもしれませんね。

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【スピーカー】
・大浦 征也氏(写真左)
パーソルキャリア株式会社 doda編集長
公益財団法人スポーツヒューマンキャピタル理事

・中竹竜二(写真右)
公益財団法人日本ラグビーフットボール協会 コーチングディレクター
一般社団法人スポーツコーチングジャパン代表理事


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