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山岳地帯のオアシス:ヤギが危険を冒してまでミネラルを求める理由

カナダ、ブリティッシュコロンビア州にあるヨーホー国立公園。切り立った崖や険しい岩肌が広がる雄大なこの山岳地帯では、世代を超えて受け継がれるヤギたちの不思議な行動を見ることができます。

北米大陸に広く生息する白い毛並みが美しいシロイワヤギ。彼らが命がけで求めるものはミネラル豊富な土壌です。ヨーホー国立公園では、多くの車が行き交うトランスカナダハイウェイ(TCH)沿いの斜面に、彼らが好んで訪れる「ミネラルリック」と呼ばれる場所があります。ミネラルリックは彼らにとって栄養補給の場であると同時に、危険と隣り合わせの場所でもあります。

ヤギを魅了するミネラルの力

ミネラルリックとは、動物たちがミネラルを摂取するために集まる場所のことです。そこでは、土壌や岩を舐めたり、泥水を飲んだりする行動が見られます。草食動物にとって、ミネラルは健康を維持するために欠かせないものです。しかし、山岳地帯のように栄養価の低い環境では必要なミネラルを摂ることが容易ではありません。

ヨーホー国立公園のシロイワヤギは春から夏にかけて、標高の高い生息地からハイウェイ沿いのミネラルリックへと、幾度となく移動することが確認されています。研究チームはこのミネラルリックの土壌を分析しました。その結果、シロイワヤギが必要とするナトリウムやマグネシウムが豊富に含まれていることが分かりました。特に、ハイウェイの側溝には冬場の凍結防止剤や砂などが残留しており、カルシウムやリンなども豊富に含まれています。出産や子育てに必要なミネラルを求めて、メスや子どものヤギたちが側溝に集まる様子も観察されています。

65年以上続く、ハイウェイ建設が生んだミネラルリック

このミネラルリックはTCHの建設以前には存在しなかった可能性が高いことが分かりました。研究チームは、ヤギたちがミネラルリックへ移動する際に利用する獣道の痕跡を木の根の傷跡から調査しました。その結果、ハイウェイ建設が始まった1950年代以前の痕跡は見つからず、建設後の1950年代後半から獣道の痕跡が増加していることが明らかになりました。

このことから、シロイワヤギたちはハイウェイ建設によって露出した土壌からミネラルを摂取することを覚え、現在まで利用し続けていると考えられています。子連れのメスは毎年春にミネラルリックを訪れるため、その行動は世代を超えて受け継がれている可能性があります。

危険と隣り合わせのミネラルリック

ミネラルリックはシロイワヤギにとって重要な場所ですが、同時に多くの危険も存在します。ハイウェイを横断する際に車と衝突したり、天敵であるクマに襲われたりする危険性があります。

今回の調査では、2頭のヤギがミネラルリック付近でクマに襲われて死亡したケースも確認されています。また、ハイウェイの交通量は日中に増加するため、シロイワヤギは夜間にミネラルリックを訪れるという行動パターンを見せています。本来、彼らは日中に活動し夜間は休息する動物ですが、ハイウェイという人間の活動領域に適応するために、行動パターンを変えたと考えられます。

引用元

タイトル:Patterns of decadal, seasonal and daily visitation to mineral licks, a critical resource hotspot for mountain goats Oreamnos americanus in the Rocky Mountains
URL:https://nsojournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.2981/wlb.00736
著者:Laura P. Kroesen, David S. Hik, Seth G. Cherry

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