地政学、流行りすぎじゃない?

ここ2〜3年、ずっと気になっていたんだけれども、最近いやに地政学本が目につく。約15年前、私が地政学を胸に、キラキラとした瞳でアメリカへ飛んで行った時は3冊くらいしかなかったと思う。せっかくだから、背表紙並べてみますね。実際のところはもうちょい出版されていたのかもしれないが、少なくとも、私の記憶にあるのはこの3冊。

その後、奥山さんが翻訳本を何冊か出してて、それでも年間数冊レベルだったと思うのだが、今Amazonで「地政学」って入力したら692もヒットしたよ・・・!本当に何事なんでしょう?最近の地政学流行り。そんなに実生活で役に立つ学問でもあるまいし。それとも、三井物産とか三菱商事とか、実は私が思っているよりもずっとずっと多い社員を抱えていて、みんながみんなサハリン2と北極航路に関心を持っているとか?んなわけ、ないでしょ・・・まぁ、実際のところは、イデオロギー2分割時代の説明も、アメリカ一極時代の説明も成り立たなくなった国際情勢を説明するのに、ちょうどいいから飛びついている、といったところだと思います。

そんなこんなで、地政学の15年選手、かつ、地味に佐藤優ウォッチャーをやっているので、せっかくだし私も最近の流行に乗って読んでみました。うーん、この本はあれだ。佐藤優本のなかでは本の元ネタが一連の講義とあって、比較的1冊のテーマが綺麗にまとまっている方・・・だけど、相変わらず脱線(しかも自分の得意かつ興味のある分野への脱線)が多い。ま、その脱線が面白かったりするので、いいっちゃいいのですけれど。

肝心の地政学についての説明は、マッキンダーの本をテキストに講義を進めているとあって、一応良心的というか初歩的というか、ちゃんと地図を使ってなされているという印象です。ただし、これは本人の好み(もちろんロシアのことね)の問題なのでしょうが、どうも陸の話が多い。海洋国家の話は5章中1章のみです。地球の7割が海だというのに、やーねー。

とはいえ、「尖閣問題など、領海問題が急に出てきたのは中国が海洋戦略を進め始めたから」という指摘は異論の余地もなく、「ウイグルらへんの問題(本では触れられていなかったインドとの問題やチベット問題も)が発生すれば、中国は海洋進出を諦めざるを得ないだろう。だってあの辺、山だし。」という指摘も、完全同意です。だって、私も卒論の結論にそう書いたんだもん。ついでにいうと、「中国が共産党支配じゃなくなっても、経済的ニーズにより海に出てきてるんだから、いずれにしろ日本と衝突する」という身も蓋も救いもない結論も出してます。

さて、わざとなのかどうかは知りませんが、佐藤氏、特に大陸国に対して「大陸国家」と呼んでいないので、(しかし海洋国家はちゃんと明記されてる。)その辺りの知識というか分類は分かりにくい。まぁ、国を2つに分類すればいいってもんでもないので、実はすっ飛ばしていいパートなのかもしれませんが。日本国民は皆、海洋国家育ちなので、なんとなく海洋国家の気性とか性質に優越感を感じてしまうという弊害もありますし。

そして、資源は地政学にならないが、宗教と人種はなるというくだり。「いったい何が地政学なのか?」という論争は10年前にも見かけた記憶がありますが、佐藤氏の指摘する点は、単に資源が資源として発見&利用されてからの時間が短いという点においてであり、例えば(ちょっと無理のある例ですけど)今後石油と天然ガス資源が枯渇した時に、太陽光や風力、潮力発電に頼れるか、原子力に手を伸ばさないとやっていけないのか、それを踏まえて「政」を考える・・・というのは十分地政学的だと思うんですよね。資源は鉄に限らず、ダイヤや金、銀、その他金属も含まれるわけですし、その中には比較的ながーく安定供給しているものもあると思うのです。「これは地政学!これは違う!」という分類は結構危険。いいじゃないですか、みんな地政学で。それくらい許容がある学問なのですよ・・・地政学は。

とまぁ、こんな感じで久しぶりに地政学に触れました。


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