弥生のお暇

コロナウイルスが暴れている。ささやかな日常はもちろんのこと、卒業式やコンサートといった、誰かの特別な非日常も脅かされている。この生活はどこへ向かっているのだろう。

かくいう私も、先日正式に卒業旅行のキャンセルに踏み切ってしまった。2年前から構想を始め、アルバイトを増やし、心の糧にしてきたドイツ旅である。なんでやねんコロナァ!という気持ちである。

私がドイツを連呼していたのを知るアルバイト先の社員さんたちは、「それが良い判断だよ」「日本を楽しみなよ」と優しく慰めてくれた。心遣いが有難い。ハイ、そうしますと言いながら、シフトを増やしてしまった。

中止に踏み切る要因はいくつもあった。この状況に対して日程もプランも悪かった、いや悪いのはウイルスだからこっちに非など何もないのだが。嗚呼コロナ、このやるせなさをどうしてくれようか。

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ここでは恨みを綴りたいのではない。我々の下した決断は、きっと正しい。いや何としても大正解にしないといけない。そのために大切なのは、爆誕したこの「お暇」をいかに有意義に過ごすかなのである。私は「オモシロイコト ナイカナァ」と念仏のごとく唱え、お暇の計画を立てることにした。

手元には現地で使うはずだった資金も残っている。大先輩から「社会人の前の春休みにはお金を惜しまずに使って遊ぶべし」という有難いお言葉をもらっているので、ケチケチするのはやめよう。私は旅行の計画を書き連ねていたノートを新しくめくり、「やりたいことリスト」作成に取り掛かった。

引っ越しの準備...とリトルひうらが呟いた。
一人暮らしに備えて自炊の練習もしなきゃだよね。
英語の勉強もやるやる詐欺だったでしょ。
免許の学科試験は?受けに行かなきゃ。

ほいほいと勢いよく書き出してからはたと気づく。これ、やりたいことというよりTo doリストだ。何か違う。これじゃない。やるけど。いつかやるけど。

もっとあるでしょう。今しかできなくて、心が豊かになるような何か...

閃きと熟考の結果、手始めに、節約のためやめていた音楽アプリへの課金を再開した。上質な生活には音楽が欠かせない。

最寄り駅の写真屋さんへ行き、インスタントカメラを買った。人混みに出るのは憚られるが、この町を出るまでに、27の景色を厳選して残してみよう。何を撮ろうか考えながら過ごすだけでも、町の色が変わる。

そういえば読みたい本も溜まっているし、大切な人たちに手紙を書くのもいい。こうするとやりたかったことは意外とたくさんあって、盛り下がっていた心がわくりと動く。

人生最後の令和2年の3月、学生最後の3月。望まないお暇を与えられた私たちではあるが、今しかできないおもしろい生活は、諦めちゃいけない。コロナウイルスの方が羨ましがってお暇してくれないものかと思いながら、ノートを埋めていく。

#エッセイ #物書き


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