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Flambée Montalbanaise

「フランベ・モンタルバネイズ/モントーバンの炎 Flambée Montalbanaise」はギュス・ヴィズール Gus Viseurが1940年に作曲し、発表したミュゼット・ナンバー。しばしば、スウィング・ワルツやミュゼット・スウィングと呼ばれる。

ミュゼットの名曲

1920年代のジャズ・エイジに流行したジャズの人気はアメリカに止まるだけではなく、世界中に広がり、それぞれの地域の音楽に結びついた。フランスにおいては「ミュゼット musette」にジャズを取り入れたり、逆にジャズにミュゼットを取り入れたりして、新たなジャンルが開拓されていった(ジャズにミュゼットを取り入れた例としてマヌーシュ・ジャズを挙げることができる)。ここでいうミュゼットとは、1880年代から1940年代にかけてパリで流行したダンス・ミュージックを指している。初期はバグパイプが用いられたが、のちにアコーディオンに置き換えられた。こうしたミュゼットにおいては、多様な音楽的ルーツが確認される。なによりも大きいのは、パリにいるイタリア系移民によって導入されたワルツやポルカのリズムだろう。このリズムは伝統的にパリのミュゼットの代名詞となった。

この「モントーバンの炎」はとくにギュス・ヴィズールの録音はスウィングしている。タイトルであるモントーバンMontaubanはフランスの地名で、オック語ではモンタルバンmontalbanと呼ばれる(タイトルは後者のオック語)。曲のタイトルの由来について2つの説がある。一つ目は、1940年7月14日のモントーバンで行われたフランス建国記念日・パリ祭にギュス・ヴィズールが参加し、そこから曲の着想を得たこと、を挙げられる。第二に、1940年にドイツ軍がオランダ、ベルギー、ルクセンブルク、北フランスに侵攻しモントーバンも戦火に見舞われたことから着想を得ている、というもの。どちらの説が正しいのかはわからないが、第二次世界大戦の中で過去の活気あるモントーバンを想って作曲したと想像するとこの曲についてまた別の良さを見出すことができる。

モントーバン(モンタルバン)の現在の景色(右)とフランス国内の地図(左)。非常に美しい。

録音

Gus Viseur et Son Orchestre (Paris, August 9, 1940)
Gus Viseur (Accordion); Pierre “Baro” Ferret (Guitar); Jean "Matlo" Ferret (Guitar); Maurice Speilleux (Double Bass);
アコーディオンの王様ギュス・ヴィズールの録音。物悲しくも美しい。

Marcel Azzola Et Son Ensemble (NOT GIVEN, 1961)
マルセル・アゾーラの録音。最初の出音からかっこいい。参加しているメンバーがわからず…。

The Paris Musette (Paris, 23–28 April or 5–6 June, 1990)
Francis Varis (Accordion); Didi Duprat (Guitar); Yves Torchinsky (Double Bass); Jacques Mahieux (Drums); André Minvielle (Vocals);
パリ・ミュゼットの録音。ここではアンドレ・マンヴィエルがギュス・ヴィズールを讃えた歌を歌っている。情熱的なんだけど物悲しい。

The Quintet Of The Hot Club Of San Francisco (San Francisco, 1994)
Paul Mehling (Guitar); Julian Smedley (Violin); Paul Robonson (Guitar); Evan Dain (Bass)
アメリカ西海岸だけではなくアメリカを代表するマヌーシュ・ジャズ・バンドのHCSFの録音。

Viviane Arnoux & François Michaud (Boston, January 22 to February 4, 1995)
Viviane Arnoux (Accordion); François Michaud (Violin)
フランスのミュゼットバンドのMAMのメンバーであるヴィヴィアンヌ・アルヌーとフランソワ・ミショーのデュオ。ひたすらかっこいい!アコーディオンとヴァイオリンのデュオはタンゴなどでもあるんだけどこの曲でははじめて。とても素敵。

The Hot Club of San Francisco (Woodside, CA, Released in 1996)
Paul Mehling (Guitar); Evan Price (Violin); David Ricketts (Guitar); Joe Kyle (Bass);
メンバーが大幅に変わったHCSFの録音。ライブ実況録音。ここからエヴァン・プライスがヴァイオリンを担うことに。

Pearl Django (Edgewood, WA, Released in 1999)
Dudley Hill (Guitar); Neil Andersson (Guitar); Paul Mehling (Guitar);
David "Pope" Firman (Bass); David Lange (Accordion)
パール・ジャンゴの録音。ディヴィッド・ラングがアコーディオンで参加。

Tom McDermott & Evan Christopher (New Orleans, April 2002)
Tom McDermott (Piano); Evan Christopher (Clarinet)
トム・マクダーモットとエヴァン・クリストファーという2人のニューオーリンズの巨匠の録音。この曲では珍しいピアノとクラリネットの組み合わせ。

William Galison and Madeleine Peyroux (Quadro Nuevo) (Brooklyn, January and February 2004)
William Gailson (Harmonica); Mulo Franzl (Saxophone); Heinz Jeromin (Accordion); Robert Wolf (Guitar); D.D. Lowka (Bass)
実際に発売されるまで訴訟問題があったりとちょっといわくつきの録音。ここではマデリン・ペルーは参加せず、クアドロ・ヌーヴォとしてウィリアム・ガリソンがハーモニカを吹いている。

Csókolom (Koblenz, Germany, December 2005)
Anti von Klewitz (Violin); Sander Hoving (Violin); Lulo Reinhardt (Guitar); Jens Piezunka (Double Bass)
ハンガリー音楽とジプシー・フィドル・ミュージックを展開しているチョコロンの録音。ヴァイオリンが2本でギターが参加している。2つ録音があるのだがどちらも非常に美しい。

Csókolom (Löwenpalais, Berlin, Germany, February 2006)
Anti von Klewitz (Violin, Viola); Sander Hoving (Violin, Viola); Anneke Frankenberg (Violin); Jens Piezunka (Double Bass)
ハンガリー音楽とジプシー・フィドル・ミュージックを展開しているチョコロンの録音。ここではヴァイオリン3本にベースという組み合わせ。

Dorado Schmitt And The Django Festival NY Festival Allstars (Washington DC, November 16, 2007)
Dorado Schmitt (Guitar); Ludovic Beier (Accordion); Samson Schmitt (Guitar); Brian Torff (Bass);
ドラド・シュミットのオールスター録音。ルドビク・バイエルのアコーディオンがホット!

Baguette Quartette (San Francisco, 2009)
Odile Lavault (Chromatic Button Accordion); Rachel Durling (Violin); John Schott (Guitar); Rich Trevor (Bass)
アメリカ西海岸で活動しているミュゼット/フレンチ・ジャズ・バンドのバケット・カルテットの録音。

Benoit Viellefon & His Orchestra (Sussex, August 2009 & September 2010)
Benoit Viellefon (Guitar, Arrangement); Peter Watson (Accordion); Geoffrey Threadgold (Double Bass); Mark Huggett (Drums);
ベノワ・ヴィエイフォンの録音。ピーター・ワトソンがアコーディオンを弾いており、スウィングしたミュゼットを楽しめる。

Daniel Colin avec Mathilde Febrer (Paris December 2015)
Daniel Colin (Accordion); Mathilde Febrer (Violin); Dominique Cravic (Guitar); Jean-Philippe Viret (Bass)
ジャン・フィリップ・ヴァレのアルコから入る美しい録音。ダニエル・コランとマチルデ・フェルベールの2人のリードが素晴らしい。泣ける。

Eddie Barbash / Kyle Athayde (NOT GIVEN, Released in 2021)
Eddie Barbash (Alto Saxophone); Dave Speranza (Bass); Jose Guzman (Guitar); Joe Saylor (Drums); Kako Miura (Violin); Lavina Pavlish (Violin); Andrew Griffin (Viola); Malcolm Parson (Cello)
エディ・バーバッシュの録音。カイル・アサイデがストリングス・アレンジをした美しい録音。

遠藤定 (Tokyo, Released in 2022)
遠藤定 (Bass); 今村真一朗 (Piano); 青木まさひろ (アコーディオン); 河野文彦 (ギター)
遠藤定さんの録音。今村さんのピアノがクール。青い炎って感じの素敵な吹き込み。最高!

Estampa (NOT GIVEN, Released in 2023)
Rebecca Karlen (Violin); John Reeves (Accordion); Paul Henderson (Guitar); Samuel Vincent (Bass)
オーストラリアで活動しているエスタンパの録音。レベッカ・カーレンとジョン・リーヴスの掛け合いが非常に美しい。

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