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「公共」は誰のもの?~映画『パブリック 図書館の奇跡』から考える

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皆さんは地域の図書館をどれくらい利用していますか。どのような人たちが図書館を利用しているのかご存じですか。図書の貸し出し以外に図書館が提供しているサービスを知っていますか。公共施設としての図書館の役割を考えたことがありますか。

わたしにとって図書館はもっとも身近な公共施設で、週に何度も足を運びます。緊急事態宣言で閉館していた図書館が再開されて気づいたのは、いつも会うホームレスの人を見かけなくなったことでした。あの人は今どこで暑さをしのいでいるのだろうと考えながら、ホームレスが公共図書館を占拠する一夜を描いた映画『パブリック 図書館の奇跡』を観に行ってきました。

あらすじ

舞台は、オハイオ州シンシナティ市の公共図書館。毎朝並んで開館を待つのは常連の利用者であるホームレスの人たちです。彼らは、図書館で身づくろいをし、本を読んだりネットを使ったり、思い思いに一日を過ごします。

凍死者が出るほどの大寒波が街を襲った真冬のある夜、閉館時間を迎えた図書館で、常連のホームレスの一人ジャクソンが、顔見知りの図書館員スチュアートに図書館を占拠すると告げます。市が運営する緊急シェルターが満員で、図書館を出れば路上で凍えるしかなく、一晩図書館で暖をとらせてほしいというのです。

彼らの望みをむげにできない理由があるスチュワート。そこに市長の座をしたたかにねらう州検事のデイヴィスや、家族問題を抱える市警のラムステッドが絡み、図書館の外では視聴率をねらうメディアが待ちかまえ、スチュアートとホームレス70人の平和的な立てこもりは大騒動に発展していきます。

公の秩序 vs 個人の権利

この映画は、ホームレスの人たちに光を当てることで、米国が直面しているさまざまな社会問題を浮き彫りにしています。貧困・格差・失業・人種差別・精神疾患・薬物依存症・アルコール依存症など、ホームレスたちは二重三重に問題を抱えています。

彼らの避難所となるシェルターは足りず、居場所となっているのが図書館です。ルールさえ守れば、彼らは利用者として尊重され、個人の権利も守られます。米国の図書館は増えるホームレスの利用者のために、ソーシャルワーカーを起用したり就労支援をしたりしているところもあるそうです。

図書館を占拠したホームレスに対応するのは、公務員である図書館員、警察官、検事。図書館を不法占拠したホームレスの人たちを追い出せば寒空の下で彼らの命が脅かされるという中で、法の下に秩序を守るのか、個人の権利を守るのか、それぞれの思惑がぶつかり合います。

市長選に立候補している検事とセンセーショナルなニュースを求めるメディアが状況をかきまわしていきますが、選挙とフェイクニュースの問題を想起させます。

声をあげることは存在を知らしめること

ホームレスのリーダーであるジャクソンが自分の思いを語るシーンは、この映画でもっとも印象的なシーンの一つです。図書館で一晩過ごすことが認められるかどうかは問題ではない。声をあげることで、自分たちが存在していることを知ってほしい。知ってもらうことで、ホームレス問題のレベルを上げるのだ。

彼らは、路上で暮らす不自由と同時に自由も感じています。路上で生活をしていても自分たちの権利が守られるべきであることを知っています。生きる権利が脅かされるかもしれない今夜こそ声をあげなくてはいけないというジャクソンの切実な思いが胸を打ちます。

自分の権利を知り、声をあげることの大切さ。映画の中では、図書館員が公権力をかざす相手に対して、「その発言は、合衆国憲法修正第XX条の侵害だ」と指摘する場面が出てきます。自分の権利を知り、声をあげることの大切さを教えてくれます。

公共図書館は誰のもの?

公共施設としての図書館は誰のものなのか。図書館はいかなる差別なく、表現の自由、思想・良心の自由を保障するために必要な知る権利を保障する場所であり、図書館の自由は守られなければならない。日本図書館協会が1954年に制定し1979年に改訂した「図書館の自由に関する宣言」の中にそう書かれています。

図書館の自由が侵されるとき、われわれは団結して、あくまで自由を守る。
2. 図書館の自由を守る行動は、自由と人権を守る国民のたたかいの一環である。われわれは、図書館の自由を守ることで共通の立場に立つ団体・機関・人びとと提携して、図書館の自由を守りぬく責任をもつ。
(出典:日本図書館協会「図書館の自由に関する宣言」より抜粋)

映画では、図書館長のアンダーソンが「図書館は民主主義の最後の砦だ!」と叫ぶシーンがあります。図書館という場所を通して、公共とは誰のためのものなのか、公共を守るとは何を守ることなのか、考えさせられました。

たった一晩の暖を求めるホームレス、不法占拠者を取り締まろうとする検事と市警、利用者の権利を守ろうとする図書館員。それぞれの思いが交錯する中、図書館に奇跡は起きるのか。

ぜひマスクをして消毒をして、映画館で結末を見届けてください。

Social Connection for Human Rights/土井陽子

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