飲食店とインバウンド

 最近ようやく、コロナ禍というものが完全に過去のものになった、という実感がある。そんな中、友人、知人と会う機会もコロナ禍以前のように増えてきた。個人的に飲食関係者と話しをすることも多いのだが、彼等との話題を非常に乱暴に要約すると、今後のインバウンドの行方、という一点に収斂されていく。そこで、外国からの視点も踏まえて、日本の飲食店の現状を考えることも、実はちょっとした意味があるのかもしれない、と考えた。

 まず店舗そのものを考える時、当然だが、外国人観光客は、日本人とは全く違う部分を見ていることが非常に多い、という事実を挙げたい。スペインで飲食業に携わった経験のある友人と常に話すのが、日本の飲食店の「不衛生な部分」についてだ。日本では、客の目につく部分は、通常、非常に清潔に保たれている。が、日本人が気にしない部分を非常に「見る」文化圏の人々が実は多い、という事実がある。空調の僅かの汚れが見えても営業停止になる国もある。汚れという部分に関しては、文化による差異が極めて大きい。一歩引いて考えてみれば、日本人が、この店はビールサーバーをきちんと洗浄しているかどうか、を全く考えないのも不思議と言えば不思議なのだ。我々が「古めかしい」、「場末だが」、「小綺麗ではないが」といった部分を仮にプラスに捉えるとしても、外国人観光客には同じようには響かない、ということを冷徹に認識する必要がある。そして、飲食店関係者の酒類に関する不勉強さは、ビジネスチャンスを逃す大きな要因になり得る、ということも指摘しておきたい。現実的な話しとして、例えば清酒と焼酎の違いを理解していない関係者も多いのだ。「米で作るのが清酒、それ以外で作ると焼酎」、「北日本で醸造すると清酒、南へいくと焼酎と呼ぶ」。こういうことを本気で言う関係者が、実際にいるのが日本なのだ。

 外国語で流暢に説明する必要は無い。この料理には、こういう理由でこの酒を勧める、この酒は、こうやって楽しむのが一番、と日本語で言えることが大事なのだ。外国人観光客の中には、日本人以上に日本の酒類に詳しい、そして日本のアルコール文化を愛している人達も多い。彼等に更に正確な情報を提供できること。今後は、今まで以上にそういったことが求められるのではないだろうか。

 清酒と焼酎と泡盛。見た目は非常に似ているが、その違いや文化的な背景とはどういったものか。我々には当然の「お通し」とは何か。ビールの「中生」の容量はどれくらいなのか。加えて「大生」はどうなのか。その量は、公式の基準があるのか。日本でワインは醸造されているのか。チューハイとは何か。サワーとは何か。

 こういったことを我々自身が再考、再認識することは、日本における酒飲みの立ち位置を顧みることにも繋がるのではないだろうか。問題意識を共有することで、日本の素晴らしいアルコール文化を更に広めていければと思う。そうなることを強く願う。

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