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名探偵、再びの再び

僕は老人ホームで働いている。

日常的には一応ケアマネージャーなので
入居者さんの生活を支えるべく、
職員さんや外部の力をお借りして
その援助をまとめさせてもらっている。
#まとまっているかは別


そんな僕は、時々名探偵になる。

例えば、
ある入居者さんが
1人で散歩に行き帰ってくる能力があることを
証明するために、変装して尾行したり、

些細な変化に気付く鋭い洞察力で
体調変化に気付いたり、
職員さんのヘアカットに気付いたり、

事故(転倒とかのね)現場の環境から
困りごとを解決する糸口を
発見したりしている。
#ヒマではない

そんな名探偵ねずみが、
入居者のKさんと推理合戦になった模様を
記事にしたいと思う。



Kさんは小柄で、
甘いものが好きで、
職員さんが不意に声をかけると
2センチ飛び上がって驚くような
繊細なハートの持ち主。


ある日。
Kさんが神妙な面持ちで事務所に来られた。

「こんなことを言うのはなんなんですが…
泥棒に入られたみたいです。」
と。

聞くと、
『体操に出ていた間に、きっちり鍵をかけた部屋から、大事に置いておいた2個入りのおまんじゅうのうちのひとつが消えていた。隣にあった財布は無事だった』と。


…まぁこの時点で言いたいことはあったが、
Kさんはいたって真剣。

ちなみにKさんは認知症状はないが、
お気持ち面に障害があり、不安を感じやすい方。

心因性の胸痛で
何度も救急車を呼んでしまったことがあり、

ご自宅で1人でいるより
老人ホームで近くに誰かいた方がいいだろう、
と、入居された方。



入居後は救急車を呼ぶこともなく、
落ち着いておられると思っていた。


ただご家族より
『父は、問題がなかったら僕らが安心して構わなくなるのを知ってるので、落ち着いている時こそ何かしでかさないか注意なんです。』
と教えてもらっていたので、

事務所に3人いた、
僕、ホーム長、副ホーム長は
【きたか…】と構えた。






Kさんは
『こんなおかしなことはない。
警察を呼ぶべきではないだろうか?』と。
おまんじゅうに捜索願いを出す気マンマン。
#おまんじゅうのお名前と歳を教えてください


真剣に訴えてこられている様子なので、
あまり軽く流すのも
自尊心を傷つけてしまうかも知れない。



うちは共用部にはカメラが設置してあるので、
Kさんが体操に行かれていた間に、
誰か部屋に入った形跡がないか、
カメラの画像を確認することになった。


おおよそ1時間の間、
カメラにはKさんの部屋に入るものは
映っていなかった。


…さて、と。

そろそろ、Kさんの勘違いでは…と
結論づけようとすると、


『そうか…!窓です!犯人は窓から入ってきたんですわ!』と。
#なるほどその手があったか


Kさんの部屋は3階で、
ベランダはあるが、外部とは繋がっていない。
また隣のお家から丸見え…

流石にもう結論が必要だと、

「Kさん、周りの家から丸見えの窓から、大胆に忍び込んで、隣に置いてある財布には目もくれず、わざわざおまんじゅうを一つ盗んで出て行く泥棒は、いないと思うんです。もしかしたら、Kさんの勘違いではないでしょうか?』
と切り込んでみた。


僕の予想した答えは、
『うーん、たしかにそうかもしれません。勘違いしていたのかもしれません。どうもすいませんでした。』
で、ハッピーエンド。





でも真実は違う。
真実はいつもひとつなのだから。

Kさんは、真っ直ぐに僕を見据え、

『わかりましたよ犯人が…。』と、
言いにくそうに、でも確信を持った眼差し。


一同『えぇっ?』

Kさん『犯人は、財布などには目もくれず、
僕の置いていたお饅頭を食べている。

おそらくね…

僕の饅頭を奪った犯人は…

甘党の小心者です!!!』







心の声『それあんたやないか!』







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