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【インタビュー】街も教育も、人の創造性の舞台。ー10代のためのクリエイティブスクール「GAKU」事務局長・熊井晃史ー

渋谷PARCOの9階にある10代のためのクリエイティブスクール「GAKU。ディレクターを務めるファションデザイナーの山縣良和氏(Writtenafterwardscoconogacco)をはじめ、建築家の伊東豊雄氏(伊東建築塾)、キーボーディストの江﨑文武氏(WONKmillennium parade)といった国内外の第一線で活躍するクリエイターが主宰するユニークなクラスが開かれています。

取材日は、いけばなクラス「花あそ部」の最終回。講師の花いけジャパンプロジェクトのみなさんは、即興で花をいけて観客を魅了する「花いけバトル」など、花文化の新しいスタイルを提案しています。今回のクラスのしめくくりでは、ひとりひとりが思い思いの作品を制作していました。

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1本の花を手に持ち、花器の前でじっと佇む生徒。展示する作品をくるくる回し、しっくりくる角度を探す生徒。たっぷり植物をいける子もいれば、1.2本の花だけで構成する生徒も。10代の放つ静かな熱量に引き込まれ、見ている私たちも思わずやってみたくなるほど!

他にも、音楽、スポーツ、ダンス、 映像、編集、ファッションなど、いろいろなジャンルのクラスが10代に開かれています。その活動の場は、教室だけに留まらず、PARCO全体、街全体に活動が広がっています。今回はそんなGAKUの事務局長、熊井晃史さんにお話を伺いました。

ーーGAKUの対象を「10代」にしたのはなぜですか?
社会の変化に伴い、知識を一方的に詰め込む暗記型の教育に代わって、創造的な学びの場がここ10年でとても増えたように思います。未就学児や小学生向けの創造性を育むワークショップも当たり前になり、最近ではリカレント教育・学び直しも注目されているように、幅広い世代に向けた多様な学びの機会が提供されていますよね。

だけど、実は「10代」が対象の場所があんまりないんです。10代は部活や受験で忙しいし、塾以外の民間事業もなかなか参入しにくい。だけど多感な10代にこそ、学校だけでは出会えないテーマやクリエイターを通して様々な可能性に触れてほしいと思っているんです。

ーーGAKU全体で大切にしている考え方はどんなことですか?
クリエイティビティは特別な人だけの力じゃなくて、人間全員にもともと備わっているんです。たとえスムーズに事が運ばなくても、「本当はやりたいことや想いを持っているのに、なんらかの要因でうまく発揮できてないんだな」と考える。発揮できていないのなら、関わり方や環境を変えることで、阻害要因を是正していきたい。GAKUは、抑制されていた欲求やアイデア、挑戦したいことを解放できる場所でありたいんです。

ーーそんな環境に近づくために、どんな工夫をされていますか?
クリエイターの方によって授業スタイルはまちまちですが、クリエイターの切実さや本気を感じることができること、手を動かして何かをつくること。この2つは共通しています。やっぱり、切実なものや本気なものを目の前にすると、「なんだかおもしろそう!」という予感や「この人の話をもっときいてみたい!」という気持ちが生まれますよね。

GAKUでは、プロのクリエイションを目の当たりする時間がたくさんあります。例えば編集者の菅付雅信さんが主宰するクラスでは、ダンサーの菅原小春さんが教室で踊ってくれました。客席との距離があるステージと違って、プロが目の前で踊ると迫力がものすごい。プロの持つ気迫を感じると、みんなの目や表情がものすごく変わっていくんですよね。そして、自分の踊りを踊っていく。そんなクリエイティビティの原点を、皮膚感覚を通して10代に伝えたいんです。

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(写真提供:花いけジャパンプロジェクト)

ーークリエイターと10代の間にどんな関係性が生まれていると感じますか?知識や情報を「教える」という部分はもちろんありつつも、クリエイターのみなさんは、新しい文化や作品を一緒に「つくりたい」気持ちで10代と向き合っていると思います。その意味では従来の「先生と生徒」の関係を超えていますよね。

今日授業をしていた花いけジャパンの日向雄一郎さんは、新しい華道文化を若者と本気でつくろうとしている。「その花のいけかた、思いつかなかった!」と10代の作品にピュアな気持ちで反応していますし、だからこそ「俺の本気はこうだぞ!」と自らのクリエイションで応答するシーンもありました。

ある音楽のクラスでは「このビートやばくない?」ってクリエイターと10代が盛り上がったり。何かをつくり出したい人同士が対等にぶつかり合うことで生まれる学び合いの時間は、事務局として見ていても、とても新鮮です。サッカーとか野球とかスポーツの世界ではあるかもしれませんが、世代を超えて考えや感動を分かち合う状況って、他にあまりないですよね。

ーーGAKUでの体験を通して、若者にどんな時間を味わってほしいですか?
「ボキャブラリーを豊かにしてもらいたい」
って思うんです。若い頃って、なんだかよくわからないけど気になるものに突き進むパワーもありつつ、一方で「かっこいい」「かわいい」「スポーツができる」「勉強ができる」とか、どうしても画一的な言語感覚で生きてることが多いですよね。

でも、そこからはみ出るところこそが可能性だったり、個性だったりする。だからこそ自分自身を捉える言葉や、好きなものを感じ取る言葉を豊かにしてもらいたいし、世界はそんな狭い側面だけじゃないよ、と伝えたい。

「花いけ」も、従来の「華道」から少しズラした言葉です。この言葉があったから、性別も経験も関係なく「花と遊ぶ」文化が生まれていると思うんです。そんな風に、本気で試行錯誤してきたクリエイターのみなさんって言葉がとても豊かです。クリエイターの言葉が共有されることで、自然と10代の自己像や社会像が豊かになったらいいなと思います。

ーー実際に参加しているこどもたちの様子や変化はどうですか?
クリエイターとの出会いももちろん貴重なものですが、同じような世代の仲間との出会いも刺激的みたいですね。きっと学校の友だちには見せない顔をここでは見せている10代も多いのではないでしょうか。家でも学校でも塾でもない場所が街にある可能性を感じています。

GAKUには、無料で自由に使える10代専用の自習室、クリエイターと10代によるポッドキャストなど、クラス以外にもいろいろな参加のチャンネルがあります。10代から逆にやってみたいことの提案をうけることもあります。「映画祭をやってみたい」とか「お茶会をしてみたい」とか。そういう時には会場を提供したり、どうしたらできるのか一緒に考えることで伴走していきます。

「やりたいこと」ってゼロから生まれるんじゃなくて、豊かで安心な人間関係ができた先に見つかることも多いと思うんですよね。「好きなことをやっていい」「周りと違ったことを言っても笑われない」など、そんな多様な価値観を持つコミュニティがあると、はっとするアイデアが生まれたり、形になっていきやすい。GAKUを通じてクリエイターと10代との関係ができたり、10代同士がつながることはとても嬉しいし、GAKUでしかできない意味があると思ってます。

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ーー渋谷の街を舞台にしたクラスではどんなことを行いましたか?
伊東豊雄さんが主宰する伊藤建築塾で家具を作る授業がありました。講師の家具デザイナーの藤森泰司さんや伊藤さんたちが「家具をつくるには、まず本物の良い家具に触れること」という考え方を大切にされていて、授業の最初は、まず渋谷の街にある家具屋さんに行きました。店主の方のご厚意で、すごく高級な椅子や珍しい椅子に自由に座らせてもらって。それは街でしかできない体験ですよね。

街で遊びながら都市の可能性や課題を発掘して建築や都市計画の理論を体感するTown Play Studiesというクラスでは、都市に自分のパーソナルスペースを仮設的につくったり、街を温度や湿度や風速といった目に見えない観点から観察しました。まさに街は新しい視点を獲得するためのフィールドなんだなと実感しました。

今日の花あそ部でも、渋谷PARCOのエントランスに生徒さんたちと作り上げた作品が設置され、来館者を出迎えています。多くの人の目に触れることには緊張感もありますが、達成感もひとしおです。やっぱり街には、教室だけではできない発見や学びがありますね。

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(写真提供:花いけジャパンプロジェクト)

ーーこれからGAKUとして取り組みたいことはありますか?
「人の創造力がフルスイングして出来たものをみてみたい」
って常々思っています。今日の花あそ部の作品が渋谷PARCOで展示されたのを見て、素朴に「かっこいい!」と心が動かされましたし、実際に完成した作品を前にたくさんの方が足をとめて見入っていました。

しかも、その「かっこいい!」をつくるプロセスには10代が当事者として参加し、試行錯誤することによって、学びの機会にもなっている。それって、なんだか最高じゃないですか?

教育という営みは、人の創造性が思いっきり発揮される場でもあるはずです。そして街というのも、本来いろいろな人の創造性の集積地であるはずですよね。だから若い世代が街に出て学び、その成果を街にアウトプットした結果、街がより面白くなる。そんなサイクルが回っていったら素敵ですよね。

ーー渋谷という街でやってみたいことはありますか?
そもそも「街で何かをやってみよう」と思う人が増えたら素敵だなと思っています。SNSやインターネットの領域でなにかをアウトプットする発想は、若い世代に定着してきていると思います。しかし本来、みんなの表現や挑戦のアウトプット先は街だったはずなんですよね。

渋谷という街も、いろいろな人の挑戦を受け止められる寛容な場所であってほしいですし、そもそも「何かをやってみよう」という気になる様々な出会いがある街であってほしいとも思います。

渋谷ってそういう文化があるはずですよね。「すれ違う人が美しいー渋谷ー公園通り」というのは、渋谷PARCO開業時の1970年代のキャッチコピーですが、建築家のルイス・カーンは、良い都市とはどのようなものかを尋ねられて、「自分が将来こうありたいと思える人と出会える場所」と答えているのとつながります。

ー人の創造性を解放するために、街ができることはなんだと思いますか?
人の学びのあり方を考える時、教育のことだけではなく、大人や街がいきいきとしていることも大切だと思うんです。大人は大人でかっこいい背中を見せないとだし、若者のまだ見ぬ表現を喜ぶ。そういう街では、きっと若者は多様に学んでいくし表現していく。そんな状況がつくれたら最高です。

クリエイターや企業や団体の方々のなかで、「自分たちは教育の世界と縁遠いな」と思われている方も多くいらっしゃると思うんですが、だからこそできることもたくさんあると考えています。渋谷という街でいろいろな方と連携をさせて頂いて、街における学びの生態系を生み出していきたいです。

GAKU公式サイト

shibuya good pass

shibuya good pass公式インスタグラム

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