「ファーム×福祉」でつくる、誰も取り残さない社会づくりとは?ー小児科専門医・リハビリ専門医・積田綾子さんインタビュー
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「ファーム×福祉」でつくる、誰も取り残さない社会づくりとは?ー小児科専門医・リハビリ専門医・積田綾子さんインタビュー

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笹塚・幡ヶ谷・初台=ササハタハツの緑道を中心とした新たなまちづくりの動きを追う本連載。ササハタハツでは、緑道での仮設ファームやマルシェを通じて新しい地域コミュニティをつくる「388farmβ」プロジェクトが進んでいます。

今回お話を伺った積田綾子さんは、年齢や経験、障害の有無を問わず、みんなで運動を楽しむ「インクルーシブ運動場」プロジェクトをササハタハツで推進しています。そんなこれまでの活動で見えてきた、運動を通じた多様なコミュニティづくり、緑道×福祉の可能性について、たっぷりお話を伺いました。(聞き手:ササハタハツまちラボ林匡宏さん)

「誰も取り残さない」社会づくりに向けて

林匡宏(以下、林):積田さんが「インクルーシブ運動場」を始めたきっかけはどんなことだったんですか?

積田綾子(以下、積田):私はもともと小児科専門医として、身体障害、発達障害、てんかんなど様々な障害を持つお子さんと関わってきました。現在はお子さんから成人まで関われるように、リハビリ科医として主に高齢者を診療しています。

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私の大きな転機は、アメリカのThe Center For Discoveryという施設でのインターンシップの経験です。そこには年間1200人以上の障害や病気を抱える方々が集まり、医者や看護師だけでなく、リハビリスタッフ、理学、作業、療法士や、心理士、などあらゆる医療や福祉の専門家、農業や環境や栄養などの研究者、アーティストやエンジニアなど、様々な分野のプロフェッショナルが働いています。

そこでは、包括的な医療ケアを受けられることはもちろん、農業やアートを通じたリハビリや教育プログラム、住宅・就労支援を受けることもできます。農業は完全循環型で、環境への配慮も行き届いています。さらに障害者のみなさんがつくった野菜や果物、アート作品は地元で販売され、経済的な循環もあります。

林:おお、すごいですね!そんな充実したプログラムで多くの方々を受け入れているのですね。

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ストレスとスポーツ&農作業の関係

積田:The Center For Discoveryで3ヶ月過ごして、「誰も取り残さない
」という本当の意味がわかった気がしたんです。医療、教育、福祉、経済、農業、環境保全、まちづくり、最適化された最新のテクノロジーが融合しているからこそ、多様な背景を持つ人々を受け入れることができる。植物も動物も人間も生態系のひとつとしてすべてを一体化し、心地良いように施設全体が設計されている。実際、わたしも滞在期間中は心と身体のバランスがすごく取れていたんです。

林:そんな経験があって、「誰も取り残さない」インクルーシブ運動場の活動につながっているのですね。

積田:はい。私の活動は、年齢も性別も障害の有無も関係なく、あらゆる人が生き生きと暮らせる社会づくりがテーマです。そのためには、ストレスとの向き合い方がカギになると考えています。

The Center For Discoveryには、人の疾病率とストレスの関係についての素晴らしい研究活動があります。多くの病気の原因にストレスや孤独が関係していることがわかっています。それらが減れば人々の生活の質も向上し、健康度も上がり、さらには医療費も削減されるのではないか?と思われます。

ストレスを減らすには身体を動かすことや農作業など自然の中での作業も有効です。「インクルーシブ運動場」では、あらゆる人に運動の機会を届けることで、ひとりひとりの健やかな身体と心づくりを目指すこと、さらに、その場を通じてお互いを思いやり、みんなで心地よく一緒に楽しめることを目的としています。心身の機能に関係なく「誰でもここにいていいよ」というメッセージを発信し続けられる場でありたいのです。

林:僕は北海道で空き家や空き商店などをリノベーションして、多様な人が楽しくつながりながら、みんなでいろいろなチャレンジのできるスペースを運営しています。そこでも、どうやったらみんなが気持ちよくつながれるんだろうと試行錯誤していて。

地元の高校生が様々な企画を実践したり、障害のある人と一緒にDIYをしたり、様々な活動をしているのですが、やっぱり相手のことをよく知らないと、単に「違うもの」と線引きをしちゃう。けど、みんなで何か一緒にやりながら、個性や特性を知るだけでも距離はちょっとずつ縮まるんですよね。

積田:障害を持つこどもたちは特別支援学校や支援学級通級などに通うことが多いので、小さい頃から分断された世界に暮らしているとも言えるかもしれないですね。でも本当は、人間ってそんな簡単に区切ることはできないと思うんです。

もしかすると、感覚過敏の子や重い自閉症の子が40人学級で1日過ごすことは難しいかもしれません。だからこそ誰から見ても心地よいインクルーシブについて考えることが必要です。私たちは、あらゆることをみんなで共有することを目指すのではなく、すべての人に共通する「生きること」や「食べること」をきっかけに、みんなが混ざり合うきっかけをつくりたい。楽しい身体遊びや農的な活動は、ストレスのないインクルーシブなコミュニティづくりのきっかけになるのではないかと思っているんです。

林:農作業も、心身ともにいい影響を与えられる可能性があるんですね。

積田:そうなんです。精神安定や安心感に作用するセロトニンというホルモンをつくるには、外からの微生物の力も必要です。健康な土から人間に健康な菌が移っていくので、そのために作業がとてもいいとされています。なので、ササハタハツのファーム計画はその意味でもぴったりなんです。

林:そういったことも、もっとまちのみなさんに知ってもらいたいですね。

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ファーム×福祉の可能性

積田:ササハタハツでやりたいことのひとつが、渋谷区の福祉施設との連携です。まずは施設に通うみなさんとの対話からはじめ、どんな風に過ごしたいか、どんな暮らしを送りたいか聞いてみることからはじめたいのですが、福祉施設の活動拠点のひとつとして「ファーム」を捉えてみたいんです。

ソーシャルファームのようにみんなで野菜を育ててみたり、ファームでリハビリをしてみたり、散歩コースにしてみたり、福祉とファームが融合した場になるのも理想的です。

林:いろいろな世代が暮らしているササハタハツだからこそやる意味がありそうですね。社会インフラの一つとして暮らしや福祉と連携したファームのあり方は素敵ですね。

積田: 障がいをお持ちの方は、街を歩くときに、持たなくてもいい遠慮を抱えていることがあります。その方達が安心して歩ける素敵な「地元」、「最先端の田舎暮らし」を届けてあげられるのがFARM。地元を歩くときぐらい、普段着の心で歩いてほしい。ずっと人の目を気にしなくちゃ生きていけない(弱者の気持ち)なんて誰が想像しても苦しいんじゃないかな。

すぐに社会全体の制度や法律は変わりませんが、草の根的に一歩を踏み出すことはできます。みんな知らないだけで、関わりたい人や助けたい人って街にたくさんいると思う。そんな人たちが関われるきっかけをつくりたいですね。「ありがとう」や「思いやり」が街で循環するような仕組みづくりをしたいんです。

林:教育、医療、福祉・・と分野でバラバラにやるのではなくて、つながることが大切ですよね。この街には個性ある面白い人たちがたくさんいるので、活動をオープンに見える化することで、そんな人たちをもっと誘い出したい。

積田:そうですね。多様な人がただそこにいて、顔見知りになって挨拶をし合う。そんな光景が当たり前になったらいいなと思うんです。地域の日常に障がいを持っている人も健常者の人も高齢者も、「みんな」がそこにいる光景が普通になること。

わたしは、FARMなら農を通してそれが実現できると感じています。たくさんの人が居心地の良さを感じるFARMであれば、誰もが住みたくなるのではないかなと。そんな街、日本にあんまりないです。これからの渋谷が成熟している国際都市を目指すなら、そんな人たちの声も届く街がいいなと思います。

居心地よく暮らしたい、という根本的な思いやそのための課題は結局つながっています。20年後、30年後、この街に残したい文化を思い描いて、実験を重ねたいですね。

林:ありがとうございます。これからのファームのビジョンづくりにもとてもヒントになるお話を伺うことができました。ぜひ一緒にたくさんのことを仕掛けていきましょう!

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