世界一美味しい料理ってなんだろう。

トントントン、と玉ねぎを切る。
僕は滅多に料理しない。僕が厨房に立つと悲しむ人が多いから。
人として、生まれ持った才能というものがあるとすれば、
僕の料理の才能は枯れ上がった砂漠レベルである。

クスクス笑っているかもしれないが、いざ僕の料理を目の前にしたときにあなたたちは言葉を失うだろう。かつて、僕が自炊で作ったパスタを見て、僕自身がゲボみたいなパスタだなっていうくらい。自分で作ったものってだいたいうまいはずなのに…

そんな僕でも自宅で仕事をするようになってから、できるだけ工程の少ないものから始めるようになると少しずつできる範囲がわかってくる。
切る・混ぜる・炒める。この程度で終わるものであれば僕の料理の才能の小さな器に収まる料理が可能ということがわかった。それと漬ける。切って漬けるだけ。これは完璧にできる。そう小学生でもな。

この限られたスキルの中で、僕はトマトソースパスタだけは作れるようになった。男って、レストランでも新しいメニューに目もくれず、いつもたべてるものを即注文するじゃない。あれと同じで、これ作れる!となったのが数ヶ月前。毎週末、トマト缶4缶くらい使って来週分のトマトソースを作ることにはまった。

そして、今日も作っている。僕のデスメニューの中から子供が唯一食べたいというのが、赤いスパゲッティことトマトソースパスタなのだ。
(もう作れるものデス路線のネーミングをつけてやろうかとも思う。)

すごく簡単な工程の中には、料理下手すぎる僕の気づきがたくさんあって、いつもこの時間楽しく過ごしている。玉ねぎを炒めるのも、飴色になるまでといわれて、最初はアメなんてカラフルだろう!と怒っていたのが、きつね色なって言われてなるほどと。少しずつわかってきている。

トマト缶を放り込んで放置して煮込めばいいと思ってたけど、定期的に混ぜた方がいいとアドバイスを知る。なんでやねん。煮込むの一緒やろだと思ったが、鍋底のソースだけ集中して熱が伝わり、上の方には弱く伝わる。と聞いて、なるほどなと。言われると目に見えない鍋の底で起きてることの想像がついてくる。

料理レシピを見ていると材料の列挙とできるだけ少ない工程で書かれたステップが書かれている。それだけ見ると、まず僕は適量ってのがわからないからレシピ開いてんだよ!とか思ってしまうんだけど、料理の食材に起きる変化の世界を伝えてもらえるとなんだかスッとする。その行為は料理に何をもたらすのか分かるだけでぐっと意味が生まれる。

妻はこの週末、東京にいる。
その間、僕がキッチンに立つ。子供達は不安そうな顔をする。大丈夫。赤いパスタだから。

子供達と食卓を囲んで飯を食う。「世界一美味しい料理ってなんなんだろう?」って娘がいって、息子は「うーん、なんだろう」と考える。
そりゃ、ママの料理だろう。パパはママの料理が一番うまいと思う。っていうと、ほんまやな!ってニコニコ。早く帰ってこないかなーって言葉の後に、パパのご飯も美味しけどな!って小学生に気を使われる。

僕らってどこまでいっても、母親や妻の料理が一番好きだと思う。
どんな高級食材で作られた三つ星レストランの料理を食べても。
結局、母親や妻の料理が一番だろう。

毎日、キッチンでトントン料理を作ってくれる後ろ姿をみたり、
今日のご飯なにー?って覗いてみたり、ふわっとキッチンからいい匂いが届いたり、僕らは出てくる料理だけを食して、美味しいを決めてるんじゃないと思う。作ってくれた人の後ろ姿や、そこにかける時間、スーパー帰りの重そうな荷物を見て、僕らの一番の美味しいを届けてくれる。

たまにたつキッチンで、すごい大変だなぁ料理は。と思いながら、
毎日ご飯を作ってくれる妻や、育ててくれた母親。
お世話になってるお店の料理人などなど、美味しいを届けてくれてありがとうと思うのでした。

さて、美味しくできたかなぁ。

いただいたお金は子どもに本でも買おうかと思ってます。