
ゾラ『ナナ』人物解説
読書会で扱う『ナナ』の人物解説です。ネタバレしているので、全部読んでから読んでみてください。私も一回しか読んでないで書いているので、加筆訂正していきます。
内容がどぎついです。だから解説もどぎついです。未成年の方は読まないでください。
ナナ
『居酒屋』の主人公ジェルヴェーズとブリキ職人クーポ―の娘。16歳でルイゼを出産。ヴァリエテ座の女優をしながら、副業で、娼婦をしている。舞台「金髪のヴィナス」でセンセーショナルなデビューを飾り、パリ中に名が知られる。相場師ダグネ、銀行家シュタネイル、皇后侍従ミュファ伯爵などと付き合い、男の身代を食いつぶす。その後、海外へ逃亡し、エジプトやトルコやロシアの王族と交際し、天然痘にかかった一人息子ルイゼの看病のため帰国するも、看病により自身も罹患し、グランド・ホテルでライバルのローズに看取られて、孤独に死ぬ。莫大な財産を残す。
ミュファ・ド・ブゥヴィル伯爵
皇后宮侍従。50代。モデルとなったナポレオン三世の皇后ヴェジニーが厳格なカトリックであったため、自身も、妻のサビーヌも厳格なカトリックである。厳格なカトリックのため、不倫は罪だと信じていた。妻以外に女性経験がない。しかし、『金髪のヴィナス』でナナの沼にはまる。ナナに入れあげて、関係を持ってから、信仰上抑えていた欲望のタガが、ぶっこわれ、おかしくなる。夫婦ともども信仰上も道徳上も堕落。財産を全部ナナに奪われる。侍従の制服姿で、ナナに陵辱されるシーンは第二帝政の崩壊を暗示する(P.665)。
サビーヌ伯爵夫人
17歳でミュファ伯爵と結婚。登場時34歳。厳格なカトリック。新聞の文化面記者で脚本家のフォシュリーと不倫して、堕落する。
テオフィル・ヴノー
宗門に関する関する訴訟を専門に扱っていた古い弁護士、つまりイエズス会のカトリックの事情通。ミュファ家に出入りして、夫婦の秘密を握り、人には言えないようなプライヴェートな相談を受けている。ミュファ伯爵は、道徳上の罪を、ヴノーの前で懺悔する。こういうキャラ、映画『グレース・オブ・モナコ 公妃の切り札』にも出てきた。
エステル
ミュファ伯爵とサビーヌ伯爵夫人の娘。登場時16歳。ナナの情婦だったダグネと結婚する。ナナは、エステルとダグネの初夜権を、ダグネに要求する。初夜権というのは、ボーマルシェの『フィガロの結婚』の主題にもなっている王権の横暴の隠喩である。
ド・シュアール侯爵
サビーヌ・ド・ブゥヴィル伯爵夫人の父。ミュファ伯爵の舅。元枢密顧問官。ナナの新しいベッドが納品されると最初に同衾した助平ジジイ。その場面をミュファ伯爵が目撃して、ショックを受ける。ジョルジュとナナの関係に最初に気づく(P.267)さらに、このジジイは、ロリコンであり、ガガの子アメリーを金で買っている。(P.542)
グザヴィエ・ド・ヴァンドゥーヴル伯爵
賭博狂。ロンシャン競馬場で行われる「パリ大賞」は、イギリス馬とフランス馬を競わせる代理戦争だった。ヴァンドゥーヴル伯爵は、馬主で、リュジニャンとナナという競走馬の馬主である。自分の馬を使ってイカサマをしようとしたが、失敗して、破産。自分の厩舎に立てこもって、石油をかぶって、火を放ち、馬とともに焼け死ぬ。
ユゴン夫人
サビーヌ伯爵夫人の母の親しい友達で伯爵家とは家族同様の存在。貞淑の権化であり、ナナを激しく嫌っている。ジョルジュとフィリップの母。ナナのせいでジョルジュは自殺未遂し、フィリップは海軍から金を横領して逮捕される。
サタン
ナナの幼馴染。レズビアンの売春婦。ナナとも関係をもち、ナナを斯道に導き、さらに堕落させる。性病で野垂れ死ぬ。
ローズ・ミニョン
ヴァリエテ座におけるナナのライバル女優。フォシュリーやシュタイネルと夫公認で不倫して、パトロナージュしてもらっている。ナナを憎んでいたが、グランド・ホテルで、危篤のナナを最後の三日三晩、献身的に看病して、女の友情というか、男社会と第二帝政への復讐というか、何かわからぬ連帯を示す。
イルマ・ダングラール
ナナの別荘の近所に住んでいる老公爵夫人。大革命の恐怖政治を生き延び、浮名を流し、道楽者だったはずなのだが、今も名誉の中で暮らしている。御年90歳。ナナが、その姿を見て嫉妬するのは、彼女が憧れる人生の上がり方だったからのかもしれない。
ゾエ
ナナの屋敷で執事役を務める。ナナの屋敷を差配して、横領しながら資金を貯め、最後は、トリコンのように、売春斡旋業を開く。
ルラ伯母
ナナの伯母。ナナの子ルイゼを育てていたが、仕送りが途絶えたため、天然痘の治療ができず死なせてしまう。『居酒屋』でも活躍していたが、今作でも、一貫したキャラで登場する。自分しかにわからない下ネタを話して、一人で笑うという、『ちびまる子ちゃん』の野口さんみたいなキャラ。
ラ・トリコン夫人
カネに困ったパリジェンヌを、デリバリーする遣り手ばばあ。ナナが金に困ると、売春を斡旋してくれる。競走馬ナナにオール・イン・ワンして大勝して、引退。
マロワール夫人
字を満足に書けないナナのラヴレターの代筆をしている年上の友人。年な帽子をかぶって、ナナの屋敷の片隅で、ベグジ(かるたの一種)をしている。
ロベール夫人
かたぎを気取った生粋のレズビアン漁色家。レズビアン・ハッテン場にたむろしている。サタンのお得意さん。
ジョルジュ・ユゴン
ユゴン夫人の次男。未成年。ナナの追っかけ。ナナに翻弄され、彼女の沼にハマり、愛玩犬のようにされる。ナナは兄フィリップと三角関係になり、嫉妬して、ナナの家の居間で、ハサミを使って自殺未遂を犯す。その血は、ナナの家の敷居に、一本の筋をつくる。出入りする男たちに踏まれて、その筋がなくなったとき、ジョルジュも死ぬという象徴的な伏線が、なかなかに憎い(P.678)。
フォシュリー
ラ・ファロワーズの年長の従兄弟。朝日新聞の文化部の記者みたいな人。自分でも脚本を書いて、ヴァリエテ座で上演するも、ミュファ伯爵にナナを起用するように圧力をかけられる。結局自作の劇は、興行的に失敗。ミュファ伯爵夫人のサビーヌと不倫している。ナナのライバル女優、ローズ・ミニョンとも不倫している。ナナを第二帝政の宮廷にたかる金蝿だ、と称した記事を書く(P.319)。終盤、従兄弟のラファロワーズとナナと三角関係になり、独立して経営していた新聞社を倒産させてしまったあげく、ナナに捨てられる(P.657)。
シュタイネル
ドイツ系ユダヤ人の銀行家。夫公認のローズの愛人兼パトロンだったが、ナナに入れあげる。『金髪のヴィナス』で成功したナナの沼にハマる。ラ・ミニョットに別荘を買ってやるが、破産しそうになり、手放す。その後、ローズとナナの間を行き来し、最後はナナによって完全に破産させられる。
ラボルデット
フォンタンに捨てられたナナを、劇場につれ戻す金髪紳士。ナナを食い物にしながらも、最後まで何事もなく生きのびる狂言回し。
エクトル・ド・ラ・ファロワーズ
フォシュリーの従兄弟。最後の方で完全な粋人になりたくて、突然ナナに入れあげ破産。ナナに『あたしの横びんたの入れ物』とあだ名される。
フィリップ・ユゴン
ジョルジュの兄。ブールジュの守備隊の中尉。弟のジョルジュをナナから引き離そうと、ナナの屋敷に怒鳴り込むが、逆に懐柔されて、弟以上にナナに入れ込む。勤務先の海軍から横領して逮捕される。
オーギュスト・ミニョン
ローズ・ミニョンの夫。銀行家シュタネイル、新聞記者フォシュリーを妻にあてがい、パトロンにして、妻の女優業のマネージングをしている。
ボルドナヴ
ヴァリエテ座の支配人。ナナを発掘して、デビューさせる。自分の劇場を「私の淫売屋」と呼ぶ。
フォンタン
ヴァリエテ座の実力派喜劇俳優。シュタネイルと別れ、ヴェリエテ座で役もつかなくなったナナと同棲する。ケチなので浪費家のナナと始終喧嘩して、DVがあたりまえになる。愛人を作ってナナを家からしめ出す。捨てられたナナはミュファ伯爵と本格的に愛人関係に入る。
プリュリエール
ヴァリエテ座の俳優。二枚目役。フォンタンと同棲しているナナにちょっかいを出してくる。
ボスク
ヴァリエテ座の老俳優。ナナにたかる。
ド・フーカルモン
ヴァンドゥーヴルの友人で海軍士官。人をからかうのが好き。ナナによって破産。
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