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【読書録】『読む力 最新スキル大全』佐々木俊尚

今日ご紹介する本は、作家・ジャーナリストである佐々木俊尚氏の『読む力 最新スキル大全』(2022年1月、東洋経済新報社)。

この本の正確なタイトルは、『現代病「集中できない」を知力に変える 読む力 最新スキル大全 - 脳が超スピード化し、しかもクリエイティブに動き出す!』という長いものだ。

佐々木氏のことは、Voicyという音声プラットフォームでたまたま知った。毎朝短い音声を発信していらっしゃるが、個人的に、その発信内容に共感できることが多い。彼のラジオを聴くのが朝の日課となっている。

佐々木氏は、毎日1000本くらいの記事の見出しに目を通し、そこから見つけた記事を無料でSNSでシェアしていらっしゃる。彼の選ぶ記事はどれも大変興味深いものばかり。ものすごい情報処理能力だ。その佐々木氏が、ご自身の「読む力」のノウハウをまとめた書籍を出版されたという。既にかなりのベストセラーになっている様子だ。

私もワクワクしながら本書を手にして、あっという間に読んだ。結論として、情報とのつきあい方について有益な示唆を与えてくれる素晴らしい本だった。

まず、本書は、カラー写真のページから始まる。佐々木氏の仕事場や、2000冊の紙の書籍の埋まった本棚の写真や、Kindle本棚やスマホの画面の写真が綴じ込まれている。どれも、整然としている。沢山の情報を効率的に処理されていることが一目瞭然だ。ついつい、自分の部屋や本棚やスマホ画面が雑然としていることと比べて、反省させられた。

そして、読むべき書籍や情報の選別方法、デジタルでの情報管理、メディアやSNSの使い方、日常の雑務の効率化など、デジタル社会における情報処理に有用なノウハウが、これでもかと続き、てんこ盛りだ。まさに「最新スキル大全」だ。情報の洪水に埋もれてしまいがちな現代において、すぐにでも取り入れられそうなものも多い。

しかし、私がこの本で最も感銘を受けたのは、タイトルにも含まれている、「集中できない」を知力に変えるという発想そのものだった。

以前、『スマホ脳』という本の読書録でも書いたが、最近のスマホ時代においては、何かに「集中する」ということが難しくなっている。

この集中力の低下が、活字離れの原因であるように言われている。実際、私も、スマホで随時アップデートされ続ける情報が、何をやっていても、ついつい気になってしまい、何事にも集中しづらくなった感じていた。好きな読書をしていても、昔ほどじっくりと没頭することが減り、少し読んではすぐ手を停めて、スマホを見てしまっている。それに対して、漠然と危機感を抱いていた。

しかし、佐々木氏は、集中力が続かないことを問題視し、矯正しようとはしない。むしろ、集中力が続かないという状態を、現代社会の前提として受け入れるばかりか、それを「散漫力」とポジティブに言い換える。「散漫力」を逆手に取って、生産性を高め、新しい発想やアイデアを得るために、強みとして活用できるというのだ。

この発想の転換には、目から鱗だった。そして、集中力がないことを、つい弱点のように思ってしまいがちであった私にとって、救いの言葉のように感じた。

では、どのようにして「散漫力」を発揮すればよいのか。

その答えは、集中しなくても「タスク」がはかどるように、タスクを棚卸しして、リスト化し、「重いタスク」と「軽いタスク」に分けて、交互に繰り返すことにあるという。そうすることで、集中力を無理なく保てるという。

そして、この重いタスクと軽いタスクをこなすために、「インターバル(集中時間の感覚)」を設定するのだという。その設定は人により異なり、状況によって変化させてもよいが、集中力の続きにくい重いタスクに合わせて設定する。

まずは、軽いタスクから始める。そして、インターバルごとにタスクを一旦切り上げる。それにより、飢餓感が生まれる。それにより、仕事を続ける原動力となるし、ある種の「フック」「引っかかり」にもなり、「無意識の領域のコビトさんたち」が舞い降りてきやすく、アイデアや発想を思い浮かぶ状況を生み出すというのだ。

このくだりを読んだときに、思わず膝を打った。

私は、時々、仕事や社外の勉強会などで、講演を頼まれることがある。そういう講演の準備にあたっては、なかなか集中ができない。いつも、エンジンがかかるまでに、とても時間がかかる。何をどのように話そうか、頭の中で考えつつも、プレゼンテーションスライドが未完成のまま、時間だけが過ぎてゆき、焦ってしまう。しかし、納期は刻々と迫ってくる。夏休みの宿題に着手せず8月31日を迎える小学生のようなものだ。

そんなとき、私は、まずは、自己紹介スライドを作って、お気に入りの写真を選び、修正してアップしてみたりして、とりあえずパワーポイントを動かし始める。車のアイドリングのような感じだ。ネットサーフィンして、他の人が類似テーマでやっている講演を集めて読んでみて、気になった情報を書き出してみる。また、過去の自分の経験をふりかえって、キーメッセージをどうするかを考える。そういった作業は、断片的、断続的に、他の仕事の合間に、少しずつとりかかっていた。

そういうぶつ切りのタスクを何度か経ると、ようやく、全体のイメージがつかめてきて、こういう資料を作ればよいとか、こういう表現はどうだろうとか、考えが進んでいく。そうしていくうちに、気づいたらスイッチが入っていて、一気に物事が進んでいく。そういうのが今までのパターンだった。

これは、佐々木氏のいう「軽いタスク」から始めて、タスクを細切れにこなすということを、自然と実践していたのかもしれない。今までは、一気に集中できず、なかなか神が舞い降りてこないのが、自分の要領の悪さのように感じていたが、実は、これはこれで理にかなったやり方だったのかもしれない。そう思うと、何だか少し自信が持てた。

あとは、これに、本書で学んだ「インターバル」の時間をきっちりと決めて、短時間の集中を繰り返し続けていけば良さそうだ。さらに効率が良くなり、モチベーションもアイデアも、もっともっと生まれてくるのではないか。取り入れない手はない。さっそく、やってみようと思う。この方法は、色々な場面に応用ができそうだ。

皆さんも、本書の助けを得て、「散漫力」を武器にしてみてはいかがだろうか。

ご参考になれば幸いです!

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