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憧れ、ときめき、知的刺激、大盛りで。

You are what you read.

#私を構成する5つのマンガ  なるハッシュタグにつられて、今までいち読者としてたくさんの記事を楽しませてもらっていたnoteに、初めて投稿してみます。

読書履歴を披露するなんて、己の出自や学力、興味、果ては性癖まで晒すようなもんっスよ…とずっとビビっておりました。ですが。恥の多い人生なれど、もうビビる年でもなし。今よりもっと未熟だったわたしに雷を落とした作品を改めて考えることで、自分自身の輪郭を浮かび上がらせるような「人生棚卸し」作業ができました。

些細なひとコマが、夢を与えてくれる。

『銀曜日のおとぎばなし』萩岩睦美

昭和に生まれた少女の掟。それは『りぼん』派か『なかよし』派か、所属を表明することでした(少年なら『コロコロ』VS『ボンボン』ですね)。私は圧倒的『りぼん』派。『ときめきトゥナイト』『有閑倶楽部』『月の夜 星の朝』など、綺羅星のごとく輝いていた名作たちの中で、好きだったのがこの作品。

舞台はロンドン。もう一度書きます。インターネットもない時代に、舞台はロンドンです。銀曜日に生まれた小人族のお姫様ポーが、心優しい青年スコットと出会い、自らの宿命を背負いながら新しい世界を切り開いていきます。詳しいストーリーは読んでいただくとして、当時の私の心に楔を打ったのは、ほんの些細なひとコマ。うろ覚えで大変恐縮ですが、スコットがフィッシュ&チップスを買って食べるシーンが(確か)あったのです。寒い中、できたて熱々のホクホクを、ポーもおすそ分けしてもらってご満悦。…フィッシュ&チップス。何それ? うちの近所には売ってませんけど。

未知との遭遇の瞬間でした。その後、少女は「初めてのフィッシュ&チップスは本場のじゃないとダメなの!」と謎の操を立て、誓いを胸に数十年を経て彼の地へ渡り、夢の食べ物と「やっと会えたね(C)辻仁成」を果たすのでした。あー恥ずかしい。でも、これこそが「夢を与える」ってことなんじゃないかなぁ、と今になって思ったりなんかして。

めまいがするほど眩しかった、アメリカの光と影。

『CIPHER』成田美名子

『BANANA  FISH』吉田秋生

この2作品、私の中では対になっています。『CIPHER』はNYで暮らす女子高校生アニスが、ひょんなことから同じ学校に通う人気者、サイファの秘密を知り、つかの間の共同生活をすることから始まります。この作品もディテールがとにかくリアル。アニスとサイファの高校生活(2人はアート系の学校に通っていて、とにかく私服がおしゃれ)、アメリカの生活様式(キルト、デンタルフロス、ハロウィンなど未知の文化てんこ盛り)、80年代最新カルチャー(ワム!とかペットショップボーイズとかフィル・コリンズとか)、etc…。はるか太平洋の向こうで繰り広げられるまぶしいハイスクール・ライフに夢想する中学生が一丁上がりました。

一方の『BANANA  FISH』。最近アニメ化され存分に堪能しましたが、原作と大きく違うところがありまして。それは「ベトナム戦争」の影。原作『BANANA FISH』は、戦争で傷ついたアメリカのかさぶたを剥がし、裏社会を描いていました。完全無欠の美少年、アッシュが戦ったのはハゲ親父…もといパパ・ディノではなく、アメリカ社会の「歪み」だったのかもしれません。そして私はこのマンガでサリンジャー、ヘミングウェイといったアメリカ文学を知りました(マンガは教養!)。

ちなみにアニメ版の各話タイトルは上述のサリンジャー、ヘミングウェイ、フィッツジェラルドの作品名が使われていて、なおかつストーリーと絶妙にリンクしているという往年のファンの血圧を上昇させる高等技。『BANANA  FISH』を未読の方はマンガ→アニメと辿ってみられることをおすすめします。

文学が先か? マンガが先か?

『いたいけな瞳』吉野朔実

『少女ケニヤ』かわかみじゅんこ

『りぼん』で育った少女は『ぶ〜け』女子へと不完全変態するもの、と相場が決まっておりました(集英社という相関性があるので『完全変態』ではありません笑)。例に漏れず『ぶ〜け』の園へと招かれ、ロマンティクで華やか、なのに内省的な作品たちと出合うことに。『純情クレイジーフルーツ』『永遠の野原』など、錚々たる名作から己の「乙女成分」は強く醸され、マインドセットされてゆきました(40を過ぎても未だうっすら残っている乙女心は、この頃にギューっと濃縮したものが還元されたものです…)。中でも異彩を放っていたのが吉野朔実作品。『少年は荒野をめざす』は文学の領域で、「作品を理解できる」なんておこがましいことは言えない孤高の世界観でした。私の文学体験って、吉野作品が最初なのかもしれません。

『いたいけな瞳』は一話読み切りスタイルです。初めて吉野ワールドに分け入るなら個人的にこちらがイチオシ。中勘助の小説『銀の匙』を思わせる、「子供の頃に見ていた世界」が追体験できます。夢のようにはかなくて美しいのに、怖いほど冷たくて鋭利。でも、すっとぼけていたりもする…。吉野作品はもっとたくさんの人に読まれて欲しいです。ご新規さま、カモン!

そして最後は『少女ケニヤ』。かわかみじゅんこ先生は『中学聖日記』『パリパリ伝説』も人気ですが、私は初めて『少女ケニヤ』を読んだ時「すみませーん! 天才見つけちゃったんですけど!!」と誰かにポケベルでメッセージを打ちたくなったものです。今ならエモい、なんて言葉ですまされちゃうのかもしれませんが、巻頭の「おなもみ」からもうリリカル。こちらも文学の領域です。開花直前の桜の蕾みたいに、思春期の時代ならではの、溜めに溜まったイガイガ、モヤモヤ、ムズムズがむんむんとはちきれんばかりに膨らんでいて、今読んでもそれなりにこっ恥ずかしくなれます。

リアタイで夢中になった作品は「細胞核」になる。

こうやって自分を構成するマンガを考えるに、やっぱりリアルタイムで夢中になったマンガは細胞核のごとく、自分自身のベースになっています。私には小学生の息子がいますが、彼も『鬼滅の刃』や『アオアシ』、『ブルーロック』の新刊を心待ちにしています。古典と呼ばれるエバーグリーンも手に取って欲しいですが、現在進行形で制作されている作品を追いかけることは、先の人生を生きる自分を支える基盤になるのだろうと思います。リアルタイムで応援する読者だからこそ享受できる刺激、興奮、感動を、これからも体験し続けたい。そんな謎の操を、2020の初夏にうっかり立ててしまうのでした。











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