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元カレとの約束(フランス恋物語83)

久しぶりのメール

10月8日の夜。

北イタリア旅行からパリに帰ってきた私は、パソコンを開きメールチェックをした。

すると、去年の年末の渡仏ギリギリまでお付き合いしていた東京の元カレ・智哉くんからメールが届いていた。

私が渡仏した直後の1月にはちょくちょくメールが来て返事をしたが、そのうちぱったり来なくなっていた。

「新しい彼女が出来たのかな?」と思っていたのだが・・・。


メールの内容は短いものだった。

玲子へ
久しぶり。元気にしてる?
フランスで彼氏はできた?
俺は彼女いたけど、最近別れたよ。
昨夜玲子が夢に出てきたので、元気かな?と思ってメールしました。
帰国するの年末だよね?
よかったらまた連絡ください。
智哉

「夢に出てきたからメールした」とか言うところが、彼らしいなと思った。

別に嫌いで別れたわけではないので、智哉くんからのメールは素直に嬉しかった。

私は返事を書いた。

智哉くんへ
お久しぶりです。私は元気にしてます。
フランスで彼氏はいたけど、別れて今はいません。
突然ですが、年末の帰国予定を早め、10月31日に帰国することにしました。
まず東京で部屋探しして契約を終えてから、関西の実家に帰省する予定です。
玲子

メールを送信した後、私は東京で智哉くんと付き合っていた日々を懐かしく思い出していた・・・。

出会い

それは、二年前の11月。

私が元夫と離婚してバツイチ生活もだいぶ慣れてきた頃、智哉くんと出会った。

私は28歳、浪人経験のある彼は23歳の大学3年生だった。

共通の友人が開催した飲み会で、私たちは知り合った。

第一印象は「千葉雄大似の、あどけなさの残る可愛らしい男の子だな」というものだったが、残念ながら飲み会の席は離れていた。

二次会のカラオケで隣になり話すことができたが、自分から連絡先を聞くのは憚られて、初めて会った日はそれで終わってしまった。


1ケ月後、同じ友人主催の忘年会で、私は智哉くんと再会した。

もう会えないと思っていたので、彼と会えて私は嬉しかった。

話していくうちに彼も私との再会を望んでいたことがわかり、意気投合した私たちは連絡先を交換した。

クリスマスは終わった後だったが、一回デートしただけで盛り上がり、年末は私のうちで一緒に過ごすことになった。


大晦日の夜、私のうちに泊まりに来た智哉くんは、一緒に寝る前、「僕とお付き合いしてください。」と律儀に言ってくれた。

私はドキドキしながらこう答えた。

「私なんかで良ければ、よろしくお願いします。

でも、バツイチだけど大丈夫?」

祈るような気持ちで、智哉くんの顔を見た。

「・・・え!?」

彼の顔に困惑の色が見えたことは明らかだった。

でも、引くに引けなくなった彼は「大丈夫だよ。気にしないから。」と言って私を抱いた。

我ながらこのタイミングで切り出したのは卑怯だと思い、彼には申し訳なく思った。


終わった後の智哉くんは、私を抱きしめ、感極まったようにこう言った。

玲子のことが愛おしくて仕方がないよ。

もうバツイチとか関係ない・・・。

私は微笑みながら、「私も、智哉くんのこと、もっと好きになったよ。」と言い、その髪を優しく撫でた。


・・・でも、もう一つ大事なことを話していなくて、罪悪感が募った。

「30歳までにはフランスに行こうと思っていること。

その時には、別れてほしいこと。」

・・・いたいけな年下の男の子に、こんな大事なことを後出しにするなんて、本当に自分は最悪な女だと思った。

でも、それくらい、私はどうしても智哉くんを手に入れたかったのだ。

期間限定の恋人

「未来を見ない」という条件を除けば、私たちは仲のいいラブラブカップルの部類に入っていたと思う。

ほどなくして私は渡仏についての話をし、私のバツイチという経歴がどうしてもひっかかるという彼は、「今は好きだけど、結婚相手としては見られない」と譲れない条件を告げた。

話し合った結果、「玲子がフランスに行くまでのお付き合いにしよう」という”期間限定の恋人”でいることで収まった。

彼にとって年上の私は、「甘えさせてくれて、色んなことを教えてくれるお姉さん」で居心地が良かったのだろう。

純粋な彼は会う度に「好きだよ」「綺麗だよ」と言ってくれて、元夫のモラハラで傷付いた私の心をじんわりと癒してくれた・・・。


29歳の夏、私がフランスのワーキングホリデービザの審査に受かると、智哉くんは「おめでとう。自分のことのように嬉しいよ。」と言ってくれた。

この時の彼の胸中なんて、私にわかるはずがない。


そして、この年のクリスマスが最後のデートとなった。

別れ際に「今までありがとう。行ってらっしゃい。」と言った、彼の寂しそうな笑顔が忘れられない。

「大晦日の出国も空港まで見送りに行きたい」と言ってくれたが、私は携帯を解約した後で、何かトラブルがあっては困ると思い断った。


・・・そんな形で、私たちは”1年限定の恋人生活”を終えた。

私は、これから始まるフランス生活で胸いっぱいで、帰国後の自分たちがどうなるかなんて、これっぽっちも考えられなかった。

再会の約束

私がメールを返信した翌日の夜、智哉くんからSkypeで話しかけられた。

Skypeは1月に設定して、それっきりになっていたのを忘れていた。


10ケ月ぶりに、私は智哉くんと会話をした。

「久しぶり」と言った彼の声は、少し大人びたように思えた。

そういえば、今年の4月から社会人になったんだっけ・・・。


お互いの近況報告をした後、智哉くんは私にこんな提案をした。

「10~11月は俺、出張でほとんど家にいないから、東京で部屋探しする間うち使ってもいいよ。」

・・・それは私にとって、願ってもないことだった。

「本当?お言葉に甘えていい?

じゃ、鍵は郵便ポストに入れておいてくれる?」

すると、彼はこんなことを言った。

「10月31日は土曜で俺は東京に戻ってきてるから、空港まで迎えに行くよ。

久しぶりに会って色々話がしたい。」

てっきり、私一人で彼の家を使わせてもらって完結すると思っていたのに、いきなりお泊りになると聞いてそれはちょっと・・・と思った。

でも、東京の宿泊費が浮くのはありがたいし、元カレと一度くらいそういう関係になってもまぁいいかと思い、私はその案を受けることにした。


私は、帰国のタイミングで実家に連れ戻されるのを何よりも恐れていた。

離婚した時も帰ってくるのを期待されて、突っぱねた経緯がある。

いつまでも子離れしてくれない両親に、「帰る気はありません。ずっと東京で暮らします。」という意志をアピールするため、帰国後にまず東京の部屋を契約しておく必要があった。

私は、”智哉くんとのその後”は考えないことにして、とりあえず新しい東京生活の基盤作りに集中しようと思った。

マルタ留学

フランス以外の国を旅してみて、フランス語よりも英語の重要性を痛感した私は、帰国する前にヨーロッパ圏で英語の短期留学を決めた。

日程は10月11日~25日の2週間で、行き先は地中海に浮かぶ・・・、かつてイギリスの植民地だったマルタ共和国だ。


10月11日の日曜日、パリのシャルルドゴール空港AM11:45発のフライトで、私はマルタに飛び立った。


この新しい地でも、たくさんの出会いと経験が私を待っていた・・・。


ーフランス恋物語84に続くー


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