映画デートの顛末(フランス恋物語53)
国際恋愛専用出会い系サイト
フランスワーホリ生活も半分を過ぎた、7月中頃。
私は、”将来のパートナーとなるフランス人男性”を見付けるため、パリに住んでいる。
ワーキングホリデービザの残された期限は、あと5ケ月。
しかし、出会うフランス人は大学生や結婚願望のない20代などで、上手くいかない恋ばかり・・・。
昨夜なんか、成り行きで19歳の男の子と一夜を共にしてしまい、翌朝の苦しさといったら、フランス生活最悪のどん底を味わったくらいだ。
・・・そんな私を見かねて親友のエリカちゃんが教えてくれたのが、”国際恋愛専用出会い系サイト”だった。
人種や国籍で相手の条件を絞れるので、自分を”日本人”のカテゴリに入れ、相手を”フランス人”に絞って募集すれば、「日本人女性との交際を希望する、フランス人男性と効率的に出会える」・・・ということになる。
現に、彼女はその方法で、警察官の彼氏と出会い、将来を見据えたお付き合いをしている。
”エリカちゃんという成功例”を身近に見ている私は、それに賭けてみることにした。
登録
自宅に帰るとパソコンを開き、早速そのサイトの登録を始めてみた。
エリカちゃんの言う通り、日本語対応もあったのはとてもありがたい。
自分のプロフィールは、閲覧者がフランス人だと身バレも何もないので、そのまま”Reiko”と書き、写真もバッチリメイクの一番よく取れているものを貼り付けた。
自己紹介文は、しっかりとフランス語で書いてゆく。
次に、相手の条件を細かく入力していった。
譲れないのは、「日本人女性を探しているフランス人」と、「パリ近郊在住」の2点。
年齢の条件は迷ったが、自分が30歳なのを考慮し、下はマイナス10歳、上は一回り上までということで「20歳~42歳」にした。
エリカちゃんに「若い子はやめて30代以上にしなよ」と言われたが、「どんな子が来るのか見るぐらいいいよね」という言い訳をして、下は甘めに設定してしまった。
検索をかけると、条件に合った人がどんどんピックアップされてゆく。
しばらくすると、メッセージが来たり、チャットでも話しかけられるようになった。
まるで自分がモテていると勘違いしそうだが、向こうだってどんどん色んな女性に話しかけているのだから、この程度のことで舞い上がっていてはいけない。
Pierre
何人かメッセージで話してみて、その中に、「いいな」と思える顔で、話も合った男性がいたので、早速明日の夕方映画を見に行く約束をした。
彼はピエールという名前で、24歳のSEだという。
「24歳って若すぎ」とエリカちゃんに怒られそうだけど、一応社会人だし、これから色んな人とどんどん会っていくだろうし、慣らしも含めて早めに会っておいた方がいいだろう。
私は、「映画ならそんなに会話もしなくていいし、万が一相手がイマイチでもそこまで損した気分にならない」という経験則から、「映画を観に行こう」とピエールを誘った。
私が前から観に行きたいと思っていたのは、地下鉄のポスターがすごく目立っていた「bruno」という映画だった。
真っ黄色のお花畑に、局部を花で隠した全裸の男性が横たわっている写真だったのだが、いやらしさは全くなく、「とにかく面白そう」と思ったのが第一印象だった。
あのポスターを見る度にいつも気になっていた私は、映画の内容も確認せずにピエールに「brunoでいい?」と提案した。
優しそうな写真のピエールは、「Bien sûr.」(もちろん)と返事をくれた。
Les cheveux
デート当日の夕方、私たちは映画館の前で待ち合わせをした。
初めてピエールと会った私は、その実物を見て驚いた。
「か、髪が・・・。」(心の声)
顔は写真の通り綺麗だったが、24歳なのに頭髪が薄くなりかけていたことに、私は少なからずショックを受けた。
私は思わず、こう聞いてしまった。
「プロフィールの写真と雰囲気違うね。あの写真はいつ頃撮ったものなの?」
彼は、「21歳の時」と答えた。
そう、その21歳の写真では、髪はフサフサだったのだが。
20代のたった3年でハゲるって・・・。
ヴィクトルといい、なんでフランス人ってこんなに老けるの早いの?
紫外線を浴びまくっているから?
肉ばっか食べて、海藻類を食べないから?
そもそも、DNAとかどうしようもない問題?
だったらせめて、トゥールでナンパしてきたトマみたいにスキンヘッドにしたらいいのに。
・・・いやいや、髪のことは横に置いといて、とりあえず映画を楽しもう。
bruno
私の選んだ「bruno」という映画は、とても初デートには相応しいと言えない、なかなかエグイ内容だった。
【bruno】(ブルーノ)
『ボラット 栄光ナル国家カザフスタンのためのアメリカ文化学習』で、世界中に笑いと戸惑い、非難を巻き起こしたトラブル・メーカー、サシャ・バロン・コーエンによるシニカルムービー。
サシャが、セレブになる夢を持つ架空のファッション評論家・ブルーノに成り済まし、ミラノのファッションショーや中東の難民キャンプ、アメリカの政界など、世界のいたるところで騒動を繰り広げる。
各地の文化や宗教、歴史を、命を張っておちょくるブルーノに爆笑必至。
私が一番初めに衝撃を受けたのは、ブルーノが空港のバゲッジクレームの上で、段ボールから黒人の赤ちゃんを取り出したシーン。
「え、これ、本当なの? やらせ?」
それを見た空港にいる人々が、本気で驚いている顔がスクリーンに映し出される。
・・・どうやら、やらせではなさそうだ。
ブルーノというキャラはコーエンが作り上げたものだが、テロリストの元に足を運んだり、アフリカでiPodと赤ちゃんを交換したなどの行為は全て事実のようで、周囲の驚きや怒りの反応は本物だった。
(後で調べてみたら、本当に逮捕されたり、殺されかけたりしたとのこと)
不謹慎すぎたり下ネタのオンパレードで、私は久しぶりに「開いた口が塞がらない」という経験をした。
面白いか、面白くないかというと、どちらかといえば前者にはなる。
帰国したら、ちゃんと世界情勢も調べた上で、日本語字幕で見直そうと思ったくらいだ。
しかし・・・何度も言うが、これは決して初デートで見る映画ではない。
「こんなクレイジーな映画を観ようって、この日本人女、トチ狂ってやがる」と、ピエールにドン引きされても仕方がないだろう。
La cuisine chinoise
映画館を出た後は、またまた私のリクエストで中華料理店に行くことになった。
3ケ月間トゥールのホームスティでフランス料理に飽きた私は、4月にパリに転居してからは、和食か、アジアンレストランばかりに行っていた。
着席すると、私はまず、最悪だった自分の映画チョイスを詫びた。
「変な映画を観に行こうと言ってゴメンね。」
「いや、大丈夫だよ。面白かったし。」
ピエールが言葉少なに答える。
彼は大人しすぎて、その表情はあまり明るくない。
まだ「いや~、本当最低だったよ!!」とか言って、思いっきり笑い飛ばしてくれた方が楽なのに。
そして、彼と食事をして驚いたことが、「何が何でも絶対料理をシェアしない」という意固地さだった。
それがフランス流のマナーなのか、彼の性格なのかはわからないが、「色んな物を少しづつ食べたい派」の私には、その流儀は不服だった。
でも、映画にしろ中華料理にしろ、今日は自分の好みに合わせてもらったので、それくらいは譲らねばと思ったが・・・。
ピエールは紳士的で優しい人だったが、口数が少なすぎて会話が続かないのが難点だった。
「こっちは苦手なフランス語で頑張ってるんだから、母国語のアンタはもっと喋ってよ。」という心の声を抑えて、私は控えめに言った。
「ピエール、どうしてあんまり話さないの?」
すると、彼はその言葉に傷付いたようで、ますます黙らせることになってしまった。
・・・そんな訳で、”国際恋愛専用出会い系サイト”利用の初デートは、映画「bruno」の衝撃だけを残し、残念な形で終わった。
初恋の人
「ま、1回目でいきなり上手くいくわけないしね。」
それくらいでめげる私ではない。
その画期的かつ効率的なサイトが気に入った私は、毎日条件に合った男性を探すのが日課になっていた。
すると、その残念な映画デートの数日後に奇跡が起きた。
一目惚れレベルの”超・美青年”と意気投合し、長時間チャットで話すようになったのだ。
それは、私が中学生の時、初めて一目惚れした白人の男の子”エドワード・ファーロング”をそのまま大人にした、まさに理想そのもののルックスの男性だった。
なんと、1週間もしないうちに、私はその”初恋の相手そっくりの美青年”とデートする日を迎えることになるのである・・・。
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