一人で読書する夜は1129

最近また冷え込みはじめた。冬間近な気配だ。洋物の読書のお供には、ホット・コーヒーや熱々ミルク・ティ、ホット・チョコレートも良いけれど、秋の長夜や真冬のぬくぬく用には、ホット・ワインやブランディ入りのエッグノッグも相応しい。いわゆるアルコールである。

一方、読み慣れた池波正太郎あたりなら、気分を出してぬる燗のお酒が欲しいところだ。

だが、女ひとりでは、池波先生のように「おい」「はーい」と阿吽の呼吸でお燗が出てくるようにはとてもとても、行かぬ。

それで私なりの池波作品用の読書の供は、である。

まず、昼間っから熱々おでんを土鍋にたんと、仕込む。

出しはアッサリ昆布のみ、と言いたいところだが、そこは好みで昆布、干椎茸、スルメイカと大盤振る舞いし、ケチケチせずたっぷりと、取る。コブも椎茸イカも、実は具になるから無駄がない。そこへ、酒、みりんをひと回し。

大根は、分厚くカツラに剥いた皮だけ、ぬか床へそっくり埋めてしまう。皮を剥かれた大根のほうは面取りをしっかりした上で、取れた角が更に煮崩れて肩なしになりそうなくらい、しっかりと煮込む。傍らで、雪平に玉子をサッと半熟に茹でつるりと剥いておく。

土鍋の大根が好い加減に煮えたら竹輪、さつま揚げ、コンニャク、じゃが芋など次々と切って放り込む。味つけは塩をしっかり、入れてやれば十分。醤油は余計である。

一通り入ったら火から下ろして、新聞紙にくるんでソッとしておく。忘れた頃が食べ頃だ。

そして本題の、読書となる。

と、まずは夕餉に腹ごしらえ、煮返した土鍋へ茹で卵をポチャンと加えて、熱くなった所で、味がしみた大根やコンニャクを飯代わりに練物をお菜にしてカラシを付け、ハフハフと食べる。皿に二度ほどおかわりする。

うまい。

そしてようやく、本題だ。

お酒をおでんの熱々に煮詰まった汁で、割る。熱々が程好い温燗くらいの温度になって、池波正太郎作品も、すいすいと読み進む。

おでんの煮汁で酒を割るなど、酒に失礼だ、との意見もあろう。たしかに邪道であまり品良いとは言えない、言えないところが少し後ろめたくって、また旨いのである。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?