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動詞の区別#2 日本語と英語のいろいろな違い

Sakuraです。前回の「動詞の区分#1」からだいぶ時間が経ってしまいましたが、書き記すことが自分のためでもあり、それが他の読者の助けになればと思います。

1.はじめに―英語科教員について―

私たち英語科教員は、傍から見た場合は、「英語のスペシャリスト」として見られがちである。しかし、実際は、教員それぞれの専門分野は当然異なっており、得意分野もあれば、当然ながら苦手な分野も存在する。そういったものを克服しながら前に進んでいるのである。

そんな私達英語科教員だが、たとえば自動詞と他動詞の違いについて指導する場合、以下のように誤解をしている若手の指導者(教育実習生や、まれに指導歴の浅い若手教員)がいることもある。

S「自動詞と他動詞の違いはなんですか?」

T「〜に、〜を、が必要な動詞・行為・動作が他動詞で、それが不要なものが自動詞ですよ」

※S=Student、T=Teacher

これは実際に見聞きした指導の一場面であるが、この理屈は、実は正しくない。簡単なようでいて、実は自動詞と他動詞という概念は難しいのである(これらについては後で詳しく説明する)。

話をもとに戻すと、私は(今もそうではあるが)完璧な指導法などは存在しないと考える。英語教師それぞれの専門分野(教科教育法、文学、言語学(形態論・意味論・音韻論・統語論など)、談話分析、など)は教員によって異なり、それだけ自分の得意分野が異なる。

しかし、「英語科教員」は、たとえそれが自分の専門外の分野(大学の授業で学習したものの、専門分野にはならなかった分野)であっても、学習者にとっては、「英語に関してはすべてのことが満遍なくこなすことができる人」という目を向けられるものだと感じている。

私たち英語科教員は、自分の知識・理解を総動員し、生徒を根気よく指導し続ける必要がある。全員が英語を流暢に話せるわけでもなければ、全員が深い文法事項の隅々まで理解をしているわけでもない。全員が教科教育法を専門としているわけでもない。私のように、「生成文法(統語論)」や「英語史」を専門にしている教員だっているのである。それでも、日々の指導に力を注ぐのが教員なのだと思う。

2.日本語と英語の相違

そんな私たち教員だが、動詞の導入というのは、いわゆる中堅教諭あたりになってきても、いまだに指導が難しい、と感じている項目の一つである。

その理由はいくつかあるのだが、いくつか列挙すると、

①どの言語であっても必ず動詞が存在すると仮定できる(=普遍文法:Universal Grammar)

②言語によって、動詞の屈折などの「現在形、進行形、過去形などの語形変化」が大きく変動する

③日本語の「助詞」の働きは、ローマ字を用いる言語には必ずしも適応されるわけではない

という点がすぐに思いつくことである。

「動詞なんてどの言語にも存在するなら、そんなに難しくないのではないか」という考えもありそうではある。

しかしながら、言語そのものに「表意文字」なのか「表音文字」なのか、という、文字そのものの違いが前提となっており、その上で動詞が共通項として存在するのである。

当然ながら、言語によって動詞の書き表し方や運用方法は異なってくる。
日本語と英語は、表意文字と表音文字という対比であり、動詞について言えば、「語尾に活用形がくっつく膠着(こうちゃく)語」に対し、「語尾に時制を表す接尾辞をくっつける言語である屈折語」という対立が存在し、日本人学習者は、その前提をほぼ気づかず、またそれを教えられることもないままに英語を当たり前のように学習している。なお膠着語や屈折語という概念は、言語学で学ぶことであり、大学等での高等教育で初めて学ぶことが多い。

当然、高校の教科書にも膠着語・屈折語というキーワードが掲載されているわけでもなく、指導内容には含まれてはいない。しかし、その前提を少し教えるだけで、高校生段階であれば、理解が促進されうると感じている。

3.動詞の指導

だからこそ、まず学習者に理解しておいてほしいのは、「日本語と英語の遠さ」である。

同じローマ字を用いる母語話者が英語を学ぶのと、文字そのものと発音形態すら異なる日本語を母語とする我々では、難易度が全く異なるのである。運動会の50m走に、小学校1年生と中学校1年生がともに出場しているようなものである。それくらいのハンデが、学習する前から存在している。高校生くらいであれば、「そういう言語を勉強するのだ」、と改めて話をしてもいいと思う。

そいういわけで、高校では、高校に上がってきてからの生徒の誤った理解の修正、ということが必要になってくるのである。特に時制や動詞についてはそうである。

ただ、間違っている指導法……というと言い過ぎかもしれないが、誤解を招く指導があることも事実である。上で挙げた例を再掲する。

S「自動詞と他動詞の違いはなんですか?」

T「〜に、〜を、が必要な動詞・行為・動作が他動詞で、それが不要なものが自動詞ですよ」

統語的にも意味論的にも誤解を含む説明である。そもそも日本語と英語では助詞の有無という違いがあるため、どうしても統語的(つまり語順)には同じように考えることは難しい。

自動詞・他動詞という概念は、日本語で言う述語(述語動詞とも言えるだろうか)に、動作対象を表す助詞である、

間接目的語「(人・もの)へ」

直接目的語「(人・もの)を」

が後続するのかどうか、言い換えると、述語動詞の中に、助詞の意味が内包されているか否か、という違いを理解しなければならない。

ただし、この説明では、副詞(句)を表す、場所の「(場所)に・で・へ」と同じ形の助詞であるため、「場所」を表す副詞句と動詞の目的語を混同しやすい。よって助詞の有無だけで分類するのは危険なのである。

さらに、他動詞の話になると、必ず「目的語」に触れずには説明できないため、初回にこの概念を導入する際は、失敗すれば生徒は大混乱になる(筆者の体験談)。そもそも、「目的語」という概念は日本語では知覚しづらく、また高校で初めて導入される概念なのだから。

それゆえ、日本語であったとしても、次の4つの例での「に」「を」の区別を正しくできる割合はあまり高くないのではないだろうか。

・彼あげた。(間接目的語(=あげた相手)を表す助詞)

・セーターあげた。(直接目的語(=あげた物)を表す助詞)

・彼は校庭走った。(場所を表す、副詞をつくるための助詞)

・誕生日に、彼セーターあげた。(間接目的語+直接目的語)

「母語の文法なんか分かってなくても日本人なんだから心配ない」「英語を学習するのに何が問題なの?」という声はありそうだが、残念ながら言語学習において、目標言語と母語との相違点・類似点を探し続けるというのは学習過程では避けられないものである。逆に言えば、日本人であるからこそ、母語の文法の仕組みを理解している必要があるのだと声を強くして言いたいところである。

そのため、英語の動詞がどのような性質のものなのか、生徒の前で動作を「実演」したりして、視覚的にも分かりやすく伝えることがハードルを下げるのだろう、と最近は感じている。

4.まとめ

自動詞は、Intransitive verb と言い、予備校の講義や、一般書籍での構文解析などでは「Vi(=Verb intransitive)」と省略されることもある。

教える順番としては、まず日本語の述語と英語の動詞との意味上の相違から示す方が理解しやすいと考えている。その後に、統語的特徴(つまり語順)の指導、としたほうが良いと思う。
なぜならば、自動詞・他動詞の統語的特徴には、「目的語の有無」ということを説明しなければならないからである。

以上のことをまとめてみる。

英語の動詞を学習する上での注意点

1.まずは日本語の述語と英語の動詞の違いを理解しよう
→いわゆる「動詞」になれるものは、定形動詞(時制がある動詞)であって、不定詞や動名詞、現在分詞、過去分詞は「動詞」、つまり「述語」にはなりえない。

2.動詞の性質(日英比較)
・日本語には助詞があり、間接目的語「(人・もの)へ」、直接目的語「(人・もの)を」、場所の「(場所)に・で・へ」が存在する。
・英語は助詞の代わりに前置詞が発達していて、基本的には日本語の助詞=前置詞、と言っても間違いではない。
・動詞の場合は、日本語の述語はそれ以上分解しないが、英語の場合は、「自動詞」「他動詞」という風に分けて暗記する必要がある。特に自動詞の場合、日本語の助詞を当てにして覚えようとすると大きな勘違いを引き起こす。

こんなところだろうか。
次回は、この続きということで、英語における自動詞、他動詞の指導・導入例を例文を交えながら説明したい。



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