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どしゃぶりで散歩

今日、飼い犬の散歩に行かねばならないことはわかっていた。
そして今日、夜から雨になることもわかっていた。

普段は主に父が犬を散歩させている。私が行くことはあまりない。それもあってか、犬の散歩はちょっと気を使う。リードが外れたりしないか。他の犬に吠えたりしないか。なにより私が、別の散歩中の犬さん&飼い主さんとすれ違うときに挙動不審になってしまう。

そして問題が一つあった。うちの犬は傘を見ると吠えるのだ。つまりは、雨が降っても傘をさしながらの散歩はできない。うちの犬は保護犬だった。野良犬だった過去が何年かある。多分その頃に、傘でいじめられたりしたのではないか。

また、父は夜に散歩に行くことが多い(昼にも行くこともある)。あまりいつもの犬の行動パターンを崩さないほうがいいような気もした。よって私は、夕方過ぎまで時間を待ってしまったのだ。

結果、大雨が降り出していた。さすがは降水確率90パーセント。天気予報では今晩中ずっと雨である。待てば待つほど外は暗くなる。行くしかない。この雨の中を。

雨でも犬は喜んで散歩に出てくれた。いつものように近くの公園であちこちの匂いを嗅ぎまくっている。暑い一日だったからか、雨もなんだかぬるいように感じる。傘もささずに雨に打たれるままの私たちは変だろうか。犬にレインコートを着せる場合もあるのに。犬のモワモワした毛が濡れて、固く重たそうに見える。雨足はどんどん強くなる。Tシャツはびしょ濡れになり、髪や顔からしずくがしたたり落ちる。

雨に打たれてびしょ濡れになるなんて、いつぶりだろう。傘を忘れて歩いて帰った日が思い出されたけれど、きっとかなり昔の話だ。普段しないことをしていると思うと、ちょっと楽しくなってきた。塗れてもいいのだ、家に帰ればタオルも着替えもお風呂もある。

しかし、雷の音まで聞こえだした辺りで怖くなった。まだ音は遠いが、近づいてきて落ちたら困る。もう帰ろうよとリードを引っ張り、家へと戻らせた。とりあえず私はタオルで体を拭き、犬にご飯を出した。

いつもなら、散歩後はすぐにご飯を食べる。けれど今日は食べようとしないのだ。犬小屋に入ったりしてしまう。散歩し足りてないのだろうか。いや、雨の中散歩に連れていったのが気に入らないのだろうか。晴れている時に行きたかったのだろうか。犬の無言が抗議に思える。申しわけない。今度は晴れている時に、もっと長い時間、満足するまで散歩するから……。


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