幻の街
かつてハウステンボスで働いていた。
別離した妻とそこで一緒に働いていた。
長距離をドライブしての通勤であった。
また他の観光地施設の見学やら、商品の仕入れなどで九州のあちこちに出没した。
ハウステンボスから撤退するという通達を受けて、そこは夫婦の異世界空間になった。この時期までは頑なにオランダ式の空気を纏っていた。
この異世界空間を創造した神近社長が引責辞任をして、経営陣が一掃してからこの異世界は、空き店舗の目立つ寒々しい地方の寒村のような空気となる。まだ幼い子供の手を引いて、年間パスポートを駆使して毎月のように通い詰めた。
利用頻度が一番多い時期かと思う。
それでもホテルでランチを取ればこの苦境の時期でさえ、これだけのデセールを用意できた。
日本有数の旅行代理店に成長した、HISが経営を行うようになり、オランダへのこだわりが少しずつ抜けて入った。お気に入りの施設もどこか観光地にどこでもあるようなお店となり、自然と足が遠のいた。
今は独り身であり、当時の写真はこうしてデジタルに残っている。
この場所が中国資本に買われたらしい。
再び訪問することはないと思う。
あの街はやはり幻だったのか。
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