さりげなく
岡山駅で電車を降り、中央の階段へ向かっていたら、白杖を持った男性がホームを歩いていた。たぶん同じ電車に乗っていたのだと思うけれど、ぼくとは逆の方向に白杖の先で点字ブロックを探るように慎重に歩を進めている。
土曜日とはいえ朝の岡山駅は人もそれなりに多い。その中、ホームの端の、これから回送となる車両のすぐそばにいる。
このシーンについて細かくこういう描写ができるのはそのあとの出来事が印象に残るからで、ぼくはその男性を、特に何も思わずに通り過ぎようとしていた。
若い、くすんだピンク色のリュックを背負った女性がその男性に早歩きで近づき、後ろから声をかけたようだった。
以下、想像
◇
あの、何かお手伝いしましょうか?
え、あ、ありがとうございます。地下の改札に行く階段を探してるんです。
あ、それでしたらお連れしますよ、私のリュックに手をかけてもらえますか?
ありがとうございます、助かります。
二人は向きを変え、しばらく無言で、男性が女性の斜め後ろからリュックに軽く手を置きゆっくり歩く
この先階段なので気をつけてくださいね。
あ、そうですか、ありがとうございます、階段まできたらわかります。
そうですか、お気をつけて下りてくださいね。
男性はリュックから手を離し、少し頭を振り返ってお辞儀をし、小刻みな足取りで段を探り下りていく。女性はしばらくそれを確認してから、その先の上り階段へと歩く
◇
あ、そうか、そういうことか、と思う。あの女性は何度か経験があるのかな、動きがとても自然でさりげなかった。
クリニックへは定期券通院をしている。プログラムの日程の都合上、通常の診察が土曜日になり、その初日、正直面倒な気持ちが勝ちそうではあった。あったけれど電車を使っていると色々な場面を目にする。
クリニックの待合室を見渡すと何人かソファに座っていて、ぼくの名前が呼ばれるまで少し時間がありそうだ。その合間を使ってこれを書いている。
ぼくもあんなふうにさりげなく気遣いができたらなあ、と思いながら書いている。
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