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時代が変わるということ


2019年4月30日。平成が、終わった。

わたしはスイスに居るから、元号が変わった瞬間はまだ夕方の5時で、なんなら日付も4月30日のままで、そのときわたしはタンデムのパートナーとYouTubeで渋谷のスクランブル交差点の実況中継を観ていた。やはりスイス育ちの彼女には「元号」というものの存在の大きさがどうにもピンと来ないようで、彼女とわたしの間には推定70度くらいの温度差があった。

でもその実況中継も何か特別なことが起きるなんてことはなくて、日付が変わってもただ単に人々がそれぞれの傘の下で拍手をして叫んでいるだけだった。タンデムパートナーはその様子を見ながら困ったような顔をしていたけれど、わたしは一人でその横でどんどん体温を上げていった。

令和を迎える直前には家族からLINE電話がかかってきて、TwitterやInstagramでも誰もが専ら令和の話をしていて、こんなに離れた場所にいてもその熱がダイレクトに伝わる時代に生きていることを、喜ばしく思う。そしてその繋がっている感覚は、同時にわたしの胸をちくりと刺す。その正体はたぶん、寂しさ。

わたしも、日本で令和を迎えたかったな。

日本の総人口は、1億2千万人。そのうちまあ、何万人かは令和なんてどうでもいい
〜って思いながら、むしろそんなこと考えすらしないまま、夜を越えたかもしれないけれど、それでも多分1億人は、改元の瞬間を胸を高鳴らせながら迎え、なにかしらの期待をこの新たな時代に託しながら眠りに就いたのだと、そんなことを考えるとなんだかわたしまでときめいてきてしまう。

普段なら全く交わらない人生を歩んでいるもの同士が、何千マイルも距離の離れた場所にいるもの同士が、もう二度と会わないと決めたもの同士が、憎み合っているもの同士が、一つの事象に対して一斉に拍手をしている。そんな瞬間、長い人生においてそうそう経験できるものじゃない。今日という時代を生きていて、本当によかった。


誰も知らないわたしが何なのか 当てにならない肩書きも苗字も
今日までどこをどう歩いてきたか わかっちゃあいない誰でもない

これは、わたしが勝手に令和のテーマソングに設定している曲、椎名林檎とトータス松本の『目抜き通り』の歌詞の一部。肩書きも苗字も当てにせず、誰でもない自分を自由に生きる、そんな時代がきたらいい。

いや、待っているだけではだめだ。そんな時代を作っていくのだ、私たちが。

それなら上等出るとこへ出るわ 当てにされたい閃きもとんちも
もっと迷いたいもっと色めきたい 広い往来で
本番さショータイム終わらない ああ生きている間ずっと
愛し愛され歩いて行こうよ 銀座は春

肩書きや苗字の代わりに当てにするようになるのは、個人の閃きととんち。

それぞれの閃きととんちは翼となって、私たちを広い世界へと羽ばたかせる。そして見たことのない新たな世界で迷子になって、さなかに出会う人々との出会いを存分に楽しんで、全力で愛し愛されて、それぞれの果てまで全速力で駆け抜ける。

誰もが自分の人生を「本番」で「ショータイム」だと、そしてそんな人生の主役は間違いなく自分だと、誰もがそう断言できる社会を、わたしはみんなで令和の時代に築きたい。せっかく時代が目に見える形で進んでくれたのだから、私たちも追いついていかないと。


とかこう熱く語っているけれど、実際のところ今のわたしは絶賛進路迷い中だ。やりたいことや好きなものが多すぎて、何を生業にしたいかなんて現時点では決められそうにない。だから令和の時代をどうやって駆け抜けていくのかは、未だにはっきりと想像することはできない。

それでも一つ言えるのは、平成の自分に恥じない自分で生きていきたいということだ。

最近旅行のときに撮った写真をぼんやりと見返していたら、一瞬自分のことをすごく客観視できて、自分なのに他人の写真を見ているように感じた瞬間があった。主体から外れた眼差しで見るわたしは、普段わたしが自分の目で見ているわたしよりもずっと大人で、何だかすごく自由に生きている人間のように見えた。

そして、高校生のときのわたしが今のこのわたしを見たら、たぶんすごく喜んで憧れてくれるだろうな、と思ったのだ。

わたしは自分に自信がないし、いつも自己嫌悪してばかりだけれど、それでも高校生の頃の自分に比べたら、ずっと多くの素敵なものを手に入れてきた。

暖かい友人も、心を揺さぶる小説や映画も、宝石のような言葉も、忘れられない絶景も、理不尽すぎる負の遺跡も、誰かに教えてもらった果てのない悲しみも、ネイティブには及ばないけれど英語とフランス語だって、それらはきっと全てがわたしの一部となっていて、わたしを少しずつ輝かせてくれるのだ。

だから令和のわたしは、もっともっと色んなものをこの目で見て吸収して、今のわたしが出会ったら絶対に憧れるような、そんな人間になりたいと強く思う。

そんなわたしを目指して、明日からもわたしの人生の主役として、令和の時代を生きていく。今回のnoteはそんな、ささやかな決意表明だ。


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