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最近読んだ本 まとめ


①すべて真夜中の恋人たち/川上未映子(講談社文庫)

真実の恋、ってなんだろう。価値のある恋、ってなんだろう。いい恋、ってなんだろう。長く付き合えばそれは「いい恋」なのか?身体の関係があればそれは「立派な恋」なのか?失った恋は「無意味な恋」なのか?

この本は、それらの問いに静かに答えを提示する。「どんな結果になったとしても、心の底から誰かに焦がれたならば、それは真実の恋なのだ」と。たとえその恋が実らなくても、結果的に失ってしまったとしても、誰かのことを想い流した涙、締め付けられる喉、震える指、熱い頬、重ねた思い出、一瞬の心の通じ合い、美しくも烈しい感情、それらはわたしの魂に染み込んで、わたしの心の一部となって、未来のわたしを確かに生かす。恋とは、そういうものなのだ。この小説は、静かにわたしにそう訴える。

静かな白い光の中で、ワルツをゆるやかに心地よく踊り続けるような、そんな心地が最初から最後まで広がる物語。あなたの中に眠る、恋、を炙り出すような体験を。

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"三束さんは何も言わずに、わたしに手を握られたまま、わたしの目の前に立っていてくれた。誰かにただ見守られながら泣くことが、こんな気持ちのするものだということを、わたしはこのときにはじめて知ったのだった。"


②こころ/夏目漱石(角川文庫)

「先生」は、わたしの鏡、そして、あなたの鏡。「先生」が、苦しみつつも抜け出せない利己主義、自己保身。その中に、わたしもあなたも自分の姿を見出さずにはいられない。

わたしも今までの人生のあいだ、幾度もKに出会った。でもそれらのKはたまたま自殺しなくて、だからこそわたしも罪悪感に苦しまないで済んでいるだけだ。私たちが生きているのは、そんな世界、一歩間違えれば簡単に足を踏み外してしまう、簡単に自分のために誰かを容易く追い詰めてしまう。それでも畢竟、今日も自分が可愛くて仕方がないのだ。

でも、五年前、高校生のときに読み返したときとは少し読後の心地が異なっていた。あの時はとにかく思春期の自分のエゴにひたすらに輪郭を持たされるようで苦しくて、途方もない罪悪感に駆られたものだけど、今読み返すとKもKでずるい人間だったのだな、と思う。

死、を選ぶのは簡単だ。逃げ道としての死を、わたしは否定しない。だけど、自殺は自殺を呼ぶ。「先生」が最後に死を自ら選んでしまったように。『ノルウェイの森』で直子が首をくくってしまったように。「残された人間」はいつでも自己の中に死の理由を探し続け、それは暗い影となって常に残されたものに付き纏う。そしてその影は、一瞬の隙を見て、簡単に人を呑み込んでしまう。そしてきっとKは、そのことをわかっていたのではなかろうか。もう誰にも計り知ることはできないけれど、それでも先生に影を残すために、そのために死を選んだのではないかと思えてきてしまった。

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"『おれは策略で勝っても人間としては負けたのだ"という感じが私の胸に渦巻いて起こりました。私はその時さぞKが軽蔑していることだろうと思って、一人で顔をあからめました。しかしいまさらKの前に出て、恥をかかせられるのは、私の自尊心にとって大いなる苦痛でした。"


③アーモンド入りチョコレートのワルツ/森絵都(角川文庫)

ーあした世界が終わるなら、あなたは一体何をする?
もしそんな風に聞かれたら、この物語を読み終わったいま、わたしはこう答えるだろう。
ー大好きな人たちと、サティのワルツに合わせて踊り続けたいです。

不思議な物語だ。優しいサティの旋律に包まれて、終わらない夢を見続けているような。魔女の先生。サティのおじさん。ピンクのカーペット。シャンデリア。紅茶の香り。おとぎ話と現実の狭間のような、曖昧で儚いあたたかさ。

アーモンド入りチョコレートのように生きるって、どういうことだろう。わたしは、「自分の核を持って生きること」そして、「自分の個性を愛すること」なのではないかと思う。アーモンド入りチョコレートは、見た目はただのチョコレートだ。でも食べてみると中は硬くて、甘くない旨味がじわりと舌の上に広がってゆく。そんな生き方。甘いだけではなくて、すぐ溶けるわけでもなくて。

この本を通して、あなたにとっての、「アーモンド入りチョコレートのように生きる」ってどういうことか、見つけてみてほしい。そして、わたしに聞かせてほしい。

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"わたしと君絵も見よう見まねで踊りだす。彼の歌声に合わせて八本の足がステップを交える。パートナー・チェンジ。今度は彼と君絵が。彼女とわたしが。わたしと彼が。君絵と彼女が。ぐるぐるまわりながらわたしたちは踊る。フロアランプの明かりも踊る。紅茶の湯気も踊る。バタークッキーの香りも踊る。"


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