ルネ首2部バナー

ルネの首#23 モノは壊れるヒトは死ぬ

 人は慣れる生き物だ。最初は及び腰だったナオも、一か月もたてばだいぶ鉄グモに動じなくなってきた。
 ブルとグリは、声の届く範囲であれば少し離れていても命令を聞く。だから鉄グモを発見した時点で、ある程度足場が確保でき、逃げやすい高所を探す。
 逃げやすい場所がない場合は、鉄グモが即座に攻撃をすることができない後ろ側から、ブルとグリに命令を出せるギリギリまで近づいてから遠隔攻撃。そして声に気付かれたら速やかに移動。
 大体これで何とかなる。ナオの役目は目を潰すだけだ。潰しきれなくても、セツェンの手間は減る。
 セツェンの手を借りずに倒せる、自分で何とかできるとは考えない。ただ手伝っているだけだ。
 今はそれでいい。それ以上のこともできない。そこは割り切りが必要だ。
『もうアズだけのオペレートでもいけるんじゃないか?』
「ルネはニートだから働きたくないんだねぇ」
『それもあるが……子供たちが、不在がちなルネ先生に抗議をしてくるんだ」
「あっ、仕事が忙しい方だった」
『生首ニート生活を満喫するはずなのに、最近、僕は働き過ぎだな』
「うん? でも働かざるもの食うべからずって、この前ルネが教えてくれたじゃん」
『僕は食べ物を必要としていない』
「そりゃ、おなかがないもんな。でも電気食うじゃん」
『それを食事にカウントするのか?』
「まぁ、一応電気代かかってるみたいだし」
 近くの工場跡にあった発電機を使っていた以前のアジトとはちがい、今はアズの用意した家に住んでいる。
 名目上、あの建物はアズの個人的な財産であり、費用はアズが負担している。使われた水や電気の料金は救済機関を通して上層の管理組織に支払われているという。
 下層のライフラインを上層が管理する気があることにも驚いたし、こんなところでも上層に金をとられるのかと呆れた。
 人は慣れる生き物だ。
 鉄グモは怖いと思う。身の危険を感じないわけではない。ただ、最近ではナオが手伝ってくれるからと、セツェンも家でゆっくりしてくれる時間が多少増えた。
 だからこそ、ルネ先生の不在に文句を言われるわけで。
(今まで待つ相手はセツ兄だけだったもんな)
「たまにはルネも先生やれば? ほら、大変な時はサリトさんとリタさんも来るし」
『あの二人も最近ヒマだそうだしな』
「ナオ先生様様でしょ」
『アズが作ったブルとグリの功績だな』
 それはそうだけど、そこは少しくらい使いこなしたナオの努力を認めて欲しかった。
 ナオが最初に相手をしたような、小さな鉄グモは、本来リタとサリトが担当しているらしい。二人も、キューブを使いつつとどめはサリトがスライサーで、というスタイルらしく、要するにナオのサポート方法は二人のやり方を真似たものなのである。
「エアボードいいなぁ」
『やめておいた方がいい。ナオには扱えない代物だ』
「ええー」
 エアボードを使いこなせたら、高所に逃げ場がない場所でもサポートがしやすいのに。
 操作が難しいとは聞いたけれど、そこまでなのだろうか。
『適材適所、リタの仕事なんだ、アレは』
「はぁい。適材適所なら、今日はルネ、子供たちの先生になりなよ。ぼく一人で行くから」
『大丈夫か?』
「ルネが言ったんじゃん。アズ姉は現場にこなくてもオペレートできるんでしょ?」
『僕も遠隔オペレートできないことはないが。まぁ、本来はアズの仕事だしな』
「そうそう。たまには子供らにも構ってやってよ」
 ルネは、いつまでもここにいられるかわからない。本当だったら、正体丸出しで下層をうろつくべきではないのだろうし。
 だから、子供たちの相手をしてくれている方が「テキザイテキショ」というやつではないだろうか。
「行ってくる。セツ兄はアズ姉んとこ先行ってるはずだし」
 ルネがいたから、必ず適切な判断ができるというわけではない。ルネは生首だし、ルネ自身には鉄グモに対抗する能力はない。
 どんな鉄グモであれ、最終的な処分はセツェン、あるいはサリトの手を借りている。
 だから、その日に起こったことも――ただの偶然で、特別な不運だっただけなのだ。

「西側のバリケードが壊れていてさ」
 アズははそう言って深いため息をついた。
 下層街の区域は東西南北で十字型に区切られている。区画の外壁に鉄グモ侵入防止用のフェンスが設置されている。どちらも経年劣化や鉄グモの襲撃で、度々崩壊していた。
 アズの報告によれば、修繕には時間がかかるものなのだろう。その間、鉄グモは市街地に入り放題になる。
 セツェンだけ先に呼ばれていたのは、多分このためなのだろう。ナオが来た少し後に、サリトとリタもやってきた。
「様子見てきたけど、けっこう入りこんでるわ」
 リタはエアボードで、空から西区画の様子を確認してきたようだ。
 下層街はそれなりに広いし、鉄グモはまず西の郊外にいついている人間を襲うだろう。中心である市街地に到達するには時間がかかる。
 とはいえ、西区画郊外の人間を見捨てて良い、ということにもならない。
 下層で暮らしている以上、危険は隣り合わせだし、下層民に仲間意識などない。自分たちのグループだけ生き延びられたら、それでいい。
 だけど、明日は我が身であるし、市街地まで来られたら被害は甚大。最悪、上層に市街地ごと粛清されてしまうわ。
「やるしかないよ、この面子でさ」
 アズの憂鬱な声に、サリトがヘラヘラと笑う。
「ナオというサポーターが増えたんだし、そう凹むなよ」
「サリトさぁん、悠長なこと言ってないで」
「モノは壊れるし人は死ぬんだぜ。こうなったもんは仕方がないだろ」
「そうですけどー。あ、そういえばルネ君は?」
 軽いノリのサリトにうんざりした顔を見せた後、ふとアズはナオを見た。背負ってもいないし、近くに浮遊してもいないことに気が付いたらしい。
「今日は留守番。呼んだ方がいい?」
「うーん、今回に関してはルネ君は子供たちのところにいた方がいいかも。ルネ君がいれば、何かあった時に逃げ道的確にを教えられるだろうから。市街地までくることはまだないとは思うけど、一応……」
「あー、うん、そうだね」
 前に痛い目をみたから、子供たちも無茶はしないだろう。逃げ方はイサに教え込んでいる。
 ルネがいるなら、アズと通信ができるから、適切なタイミングで逃げる指示を出せるはずだ。その点においては、むしろナオがついているより信頼できる。
「もう入り込んでいるなら急いだ方がいいだろ。いくぞ、ナオ。アズはアラクの座標だしてくれ」
 セツェンはスライサーと通信用のキューブのみ持って、出る準備を始める。アズは「はーい」と軽く答えて、何やら機械を操作しはじめた。
「じゃあ、俺たちもセッちゃん組に負けないように頑張ろうなぁ、リタ」
 いつも通りヘラヘラ顔で笑いながら茶化すサリトを睨みつけ、セツェンは「この野郎」と吐き捨てて出ていく。
 彼の背中を追う前に、ナオは少しだけ気になって、足を止めた。
「サリトさん、何でいつもセツ兄をあおるの?」
 純粋に疑問なのだ。サリト自身にはセツェンに絡むような理由がなさそうに思える。
「お、そこに食いついてくるかね。ま、俺の場合、あおってるというか、ガス抜きだな、ガス抜き」
「ガス……抜き……?」
「セツは怒るのがヘタだからなー、ストレス溜めこむ前に、適度にお兄さんがつついて、たまりにたまった鬱憤を爆発させておいてやってるんだぞ」
「なんか納得できるような、できないような……」
 まゆ毛をハの字して考え込むナオの隣で、リタがぼそっと呟いた。
「要するに性格が悪いのよ。ナオちゃん、こいつの言うことは話半分に聞いておいて」
「リタさぁん、一応俺たちそれなりにイイ仲だと思ってんだけど、他に言うことないのか?」
「ない。ナオちゃんの教育に悪い」
「あっそ」
 この二人のパワーバランスも、いまいちよくわからない。
「ナオ、何してんだ?」
 ついてこないナオを気にして戻って来たらしい。
 セツェンが再びドアから顔をのぞかせたので、ナオは慌てて「今行く」と追いかけた。

 サリトはその背中を見て、ヘラッともう一度笑う。
「いや、若い若い」
「おっさんなの?」
「リタさぁん? 最近俺に厳しくない?」
 リタは冷めた顔で「そういうとこが」と呟いた。

 サリトにいじられてやや不機嫌なセツェンの背中を追いかけながら、ナオはしきりに首を傾げていた。
 サリトがそこまで性格が悪いの人なのかと思えば、それも違う気がする。ナオには優しいし、基本的にセツェン以外はいじらない。
(ガス抜き、はある意味あってるのかもだけど)
 何せ、セツェンは基本的にやせ我慢の人であるから。
 こうやってナオに手伝わせてくれるようになったことさえ、大きな進展と言える。
(それにあの人、セツ兄が見ていないところでは、ちゃんと面倒見てるフシあるんだよなぁ)
 素直に世話を焼けばいいのにと思わないでもない。
 アズのように、ぐいぐい押しきってお節介をやけば、セツェンも言うことを聞かないわけではないのだが。
(うーん、それじゃ『ガス抜き』じゃないってことかな。結局、アズ姉に気をつかってるのには変わらないし)
 大人の考えること、よくわからない。ルネに今度聞いてみよう。
 ナオや子供たちなどは、セツェンに怒られることが多々あるから「怒り方がヘタ」というのは、「叱る」の意味ではないのだろう。
 遠まわしな言い方ばかりするサリトのことが、ナオはあまり得意ではない。セツェンの性格なら、もっと苦手なのもわかる。でもどこか釈然としない。
 彼がそこまでセツェンだけ気に掛けるのは何故だろう。
 ナオの考え事がまとまるのを、鉄グモは待ってくれない。アズから通信が入って、セツェンはナオを振り返った。
「ナオ、下層C地区、一五番、中型二匹。つがいの片方は俺が片付けてくるから、片方は足止め頼む」
「はーい、了解。ブル、グリ、案内よろしく」
『目標設定シマシタ』
 地区番号を言われてもナオにはわからないが、ブルとグリにはアズから届いた情報が入る。追いかければいい。
 いつもならルネがナビゲートしてくれるところを、ブルとグリに任せるだけだ。
 いつもと何も変わらないはず――である。
 ナオも、番地がわからないだけで、土地勘が全くないわけでもない。西地区は不慣れだが、何となく区画がわかる程度には行き来したことがある。
 中型なら、焦らなければ対処できる範囲だ。深追いはしない。無理だと思ったらアズのオペレートに従って退避、残りはセツェンか、取りこぼしを始末しに来たサリトとリタに任せる。
(いつも通り、やれるやれる!)
 鉄グモはつがいで近くを行動するので、セツェンは先に片方を狩る。
 その間に、ナオはもう片方の目を潰していく。動きさえ封じれば、とどめを刺すのは後でもいいからだ。特に数が多い場合は、いちいち全て狩るのは非効率的だから、目だけ潰して数日かけて回収する。
 ナオは頭の中で手順を確認しながら、崩れかけたブロック塀や雨どいを伝い、高所に出た。
 鉄グモに襲われにくい、建物の二階以上に陣取って、ブルグリを使って目を攻撃。これができれば、大体問題なく終わる。今回は簡単で助かった。
 手筈通り一匹の鉄グモを足止めした頃、セツェンからブルグリを通して通信が入った。
『今からそっちに行く』
「りょうかーい」
 量が多いのかと思って心配したけれども、小型はサリトとリタ組が片付けてくれたのもあって、その後も三回ほど応戦しただけで済んだ。
 登れる建物も多かったので、拍子抜けするほど楽だ。
 ――と思っていたその時、ナオは大きな黒い影を見た。
「え……?」
 二階の屋根に上っているのに、すぐそこに五つの目あった。濁った緑色に光っていた。咄嗟に駆けだしたすぐ後、屋根を鉄グモの前肢が突き崩していった。
「なんでアズ姉のサーチにかかってないの?」
 それは、見たこともない大きさの鉄グモだった。通常の大型よりも、更に一回り大きい。
「あんなデカいのいるの!?」
『ナオちゃん、退避! その建物の屋根を伝って、左側に降りてセッちゃんと合流!』
「アズ姉……何あれ!」
『わからない。上手くサーチに引っかかってくれなかった! 新種かも! いずれにしても、アレはセッちゃんじゃないと無理!』
 アズからの通信。あんな大きさのテツグモは、ナオとブルグリでは対処できない。今はアズのオペレートを信じるしかなかった。
 鉄グモは大きいほどに外殻が硬い。ブルグリの出力では、目を潰しきれない可能性が高い。退避は妥当だ。
 屋根を伝い、出窓の屋根を足場に滑り下りて、塀沿いを駆けていく。少し遅れて、ゴゥ、と音が聞こえた。
 走りながら後ろを振り返ると、塀の一部が崩されかけている。追いつかれそうだ。
「足も速いとかウッソでしょ!?」
 逃げるしかない。逃げるしか。
 だけど、その時ナオは気が付いてしまった。
 女の子がいる。
 元からここに住んでいたのか、おとりとしてここに置いて行かれたのか。廃屋の片隅でうずくまって、「たすけて」と震えて泣いている子供。
「走って! 逃げて!」
 頭の隅に、同じような状況でエミルを助けられた時の成功体験がなかったと言えばウソになる。
 ブルとグリがあるから、この子を連れて逃げるくらいはできるんじゃないかと、希望観測がなかったと言えばウソになる。
 何よりも、見捨てたくなかったから、ほとんど反射的に行動していた。
 ほかでもないナオが、いつかセツェンにそうやって命を繋いでもらったから。
 セツェンだからできたことだ。ほとんどの人間は、ただ愚直に逃げることが最適解だ。もちろん、ナオにとってもそうだった。
 それなのに、助けようと思ってしまった。女の子を引きずるようにして、走った。
「ブル、グリ、足を攻撃!」
 ひとまず、スピードを落とすことができればいい。倒すことではなく、逃げ切ることが目的だから。
 ブルとグリの最大出力のレーザーが、巨大鉄グモの前肢を攻撃するが、半分も溶けていない。速度が全然落ちていない。
「かった……! 何アレ?」
 ブルグリの残りは、三発ずつ。
 上手く目を潰せても動きは封じられない。
「ブル、グリ、もう一回足を攻撃!」
 走りながら叫んだ。後ろがどうなっているか気にする余裕はない。
『ナオちゃん、そこはセッちゃんに任せて逃げて!』
 通信回線からアズの声が聞こえる。
「に、逃げてる!」
『とにかく、アイツが届かないくらい高いところへ!』
「で、でも子供がいて……!」
『その子もセッちゃんに任せて!』
 ――それは、アズの嘘だ。
 今でさえ追いつかれそうなのに、セツェンが来るのを待っていたら、多分この子は助からない。
 それを理解した上で、ナオだけでも逃げろという。
 運が良ければ、セツェンが絶妙なタイミングで助けにきてくれるかもしれない。
(いや、無理だ)
 鉄グモは、同程度の大きさのつがいで行動する。この大きさのが『もう一匹』いるなら、いくらセツェンでも、目を全て潰して足止めするのは時間がかかる。
 今逃げ切らないと、この子は死ぬ。
 ここは、最初からそういう場所だ。人は簡単に死ぬ。
 かつて人が作ってしまった鉄のクモに襲われて。
 二本足でのろのろと動く、捕まえやすい格好の獲物だ。
 人間同士でだって争って殺しあうのに、この状況で足手まといを見捨てて逃げることを誰が否定するだろう。
 それでも――。
「ブルグリ、足を攻撃して!」
『ナオちゃん!』
 三回目の攻撃は、やや手ごたえがあった。一瞬振り返ると、前肢の片方が半分折れた状態で、鉄グモが耳障りな鳴き声を発している。
「登って!」
 女の子を抱えて、手近な建物の屋根へと押し上げる。
 だけど、恐らく四、五歳の彼女はなかなか屋根の上に登れない。そんなことをしている間に、鉄グモが体勢を立て直す。
「やっべ」
 ナオはやむなく女の子を背負って、壁沿いを駆けた。
 どこか、そこか上る場所さえあれば。三階程度の高さまでいけば、いくらあの鉄グモでも届かない。
 ブルとグリのレーザーは残り一発。充填まで待つ余裕はない。それぞれ一発ずつ撃てば二発になるが、それではあの巨体は足止めできない。
 駆けていくうちに、ナオが来たことのない区画に迷い込んでいた。知らない道をやみくもに走っているうちに、行き止まりに突き当たる。
「げっ……」
 退いたら鉄グモに追いつかれる。ここを突破するしかない。塀の上まで、ナオの身長の倍くらい。
 ナオだけなら、こういう時にひっかけて登れるカギ付きのロープを腰につけたポーチに入れているけれど、この女の子をどうすべきか。
 悩んでいる暇はない。ナオがどうにかして引き上げるしかない。
 女の子の身体にロープをくくりつけて、カギを壁の向こう側にひっかける。壁の崩れかけの部分を足掛かりにして、どうにか登り始めた。
 ナオはそこまで腕力がある方ではないから、ロープを使ってもそこまで簡単には登れない。これから女の子も引き上げないといけないのに。
(間に合うか――?)
 ようやく登りきった時、路地の向こうに鉄グモの巨体と目が合った。
 この路地は、あの巨体が通り抜けるには狭い――かと思えば。
「マ、マジで……?」
 運悪くも、両脇の建物は木造やプレハブ式の簡素な建物だった。メリメリと音を立てながら建物をなぎ倒し、鉄グモが迫るってくる。
「あああ、あと、あとちょっと……!」
 女の子はなすすべもなく泣いている。
 足場の悪い壁の上から、ナオが懸命にロープを引っ張っても、半分くらいまでしか上がらない。
「キューブC、D、足を攻撃!」
 黒い立方体がナオの視界をかすめて、光線を放つ。
「ナオちゃん! こっち!」
「アズ姉!?」
「来ちゃった。私も手伝うから」
 ――来ちゃった、じゃなくて。
 だけど、ナオ一人でどうにかなる状況でもなかった。アズと二人で、何とかして引き上げる。
 二人がかりで女の子を預けると、リタが乗っているのよりだいぶ小型なエアボードに、女の子を乗せる。
「ナオちゃんは高い所に!」
「りょーかい!」
 小型エアボードはどう見ても一人用だから、小さい女の子はともかく、ナオがしがみついたらスピードを出せないだろう。
 ナオは近くに三階建ての建物があるのをみつけ、壁の上を伝って登れる場所を探した。
 その時、地面が揺れた。
 身体が宙に浮く。
 ――あ、この展開、前にもあった……。
 できればあって欲しくなかった。
「ナオちゃん!」
 アズの悲鳴が聞こえる。
 半壊した壁と一緒にナオの身体は転げ落ちて、そして金属質な鉄グモの前肢が振り下ろされようとしていた。

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