S先生の伝説の授業
私は典型的な文系で、算数と理科は大体苦手。
理系でもまぁまぁできたのは覚えるだけの授業が多い(それと化石オタクだった時期があるので元々知識があった)地学だけで、あとは生物がややできるかもくらい。化学はモノによる。数学と物理は全然だめ。
SF小説書いている場合なんかお前っていう感じであるが、それはそれ、これはこれである。元々私は理詰めのSFよりも、スコシフシギくらいのSFの方が好みだし。
そういうわけで、理数系が得意だったことが人生でただの一度もないのだけど、中学の頃にS先生がした授業だけは未だに強烈に覚えている。
それは「メンデルの法則」の授業だった。
優性遺伝子と劣性遺伝子のアレである。今は優性を「顕性」、劣性を「潜性」と言うらしいが、私が習った時はこの表現だったので、この表現でお話する。
教科書にはショウジョウバエの優性遺伝子と劣性遺伝子がどうのこうのと書いていたが、誰もそんなものを真剣に読んではいなかった。中学まではエスカレーター、高校も99%が地元の高校にエスカレーターする、日本でも有数の向学心の低さを見せる限界集落の学校である。
しかも、クラスのほとんどが農家の子供である。農家というのは、子供をいかに労働力として使うかを重視するので、むしろ勉強熱心な子供などもってのほかなのである。皆、どれだけ成績が悪くても学校にいけるし(ほぼ試験なしで受かる高校もあるくらい)やる気はない。
とはいえ、将来的に農家を継ぐつもりなら最低限覚えておいた方がいいであろうこのメンデルの法則であるが、当時、中学校の理科系授業担当であったS先生は開口一番こうのたまった。
「どうせ教科書読んでもわからないんだから閉じろ!」
まさかの授業放棄かと思えば、ここからがS先生伝説の始まりだった。
「教科書に載っていたショウジョウバエのことは忘れろ」
まぁ、忘れますよね。みんなショウジョウバエのことなんて何一つ興味がないからね。普通のハエならその辺に飛んでるけど(農家育ちだから見慣れている)ショウジョウバエって何のハエだよって感じだからね。
S先生は続けた。
「ハゲの遺伝子は優性遺伝子です。ハゲない遺伝子は劣性遺伝子です」
………………はい?
「先生の親の母方の祖父はハゲていませんが、母方の祖母はハゲの家系です」
………………はい。
「先生の父方の祖父母はどっちもハゲの家系です」
………………(クラス全員が何かを悟りはじめた顔)
「先生の父親は今のところハゲていませんが、ハゲの遺伝子は優性遺伝です」
………………(ややザワつくクラス内)
「つまり先生は将来ハゲます!!」
……………………(言葉にならないクラス内)
ハゲは優性遺伝子!!!!!!!!!!!!!!!!
実際にはもう少し細かくちゃんと解説していたと思うんですけど
「先生は将来ハゲます!!」
のインパクトが強すぎて何も思い出せないんですよね。
ちなみに、向学心が限りなくゼロに近い我がクラス、メンデルの法則がテストに出た時だけは頭がいいやつも悪いやつもほぼ全員パーフェクトに正解しました。
S先生……お元気ですか。
あの頃JCだった私も、すっかり大人になりました。
もうS先生もお若くないですよね。
ハゲない遺伝子がワンチャン遺伝していることを心よりお祈り申し上げております。
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