見出し画像

ディキンソン詩集と美しい死と詩

久々に読書日記を更新。

ツイッターの方でことあるごとに「ディキンソンさんはいいぞ」と言っている私ですが、上京して1年以上たっても未だに整理しきれていない引越し荷物(というよりは純粋に本棚にもう入らない)がためにディキンソン詩集が箱から取りだせず、この前ついに神保町で2冊目を買いました。

本末転倒か。

いいんだ、保存用と布教用だよ。

神保町といっても、たまたま見かけたからイキオイで買っただけで、岩波書店版の『対訳ディキンソン詩集』も他の出版社のディキンソン詩集も、余裕で新本が手に入るかと思いますので(私も最初の本は新本で買いましたし)ぜひ、新本でお手に取っていただければと!(手もみしながら)

この詩集との出会いは、そもそも恐竜の絶滅に関する本からでした。

初めにことわりをいれますが、ディキンソンさんが恐竜の絶滅に関するポエムを詠んでいたわけではありません。恐竜が絶滅する本に引用されている詩があったのですね。

かくて世界の終りは来たり
銃声すらなく、すすり泣くように

T.S.エリオット

引用されてるのディキンソンさんじゃないだろうが!

というツッコミの声が聞こえてきそうですが、この詩の引用元の詩集を探しているうちに偶然引っかかってしまったのがディキンソンさんでした。

ちなみに余談ですが、この引用元の詩を書いたT.S.エリオットはミュージカル『キャッツ』の原作者さんですね。

それはともかく、本題のディキンソンさんに戻ります。

ディキンソンさんは、19世紀アメリカの女性詩人でございます。

エミリー・ディキンソン Wikipedia

生前に発表されたのは匿名での10篇ほど、亡くなってから大量の詩編が発見された、死後に名声を得た詩人であります。

「生きている内に売れなかった」というよりは「生きている内はほぼ表に出なかった」というのが正しい方で、ステルス性能でいうとサリンジャーよりも遥かに上です。

肖像写真ですら、若いうちの2枚(うち1枚が割と最近になって発見された)のみという、中世の詩人だってもうちょっと肖像残ってるんじゃないかレベルの表に出て来なさ。実際、地元をほとんど離れていなかったようで、交友の記録も少なく(熱烈な愛の手紙が残っているのに差し出された形跡がないとか……)かなり謎の多いお方。

その作風は一言でいうと「美しい死の詩」という感じ。

いや、死に関する詩だけを書いているわけではないのですが、全体的に退廃と死の香りに満ちています。

岩波文庫版の詩集から引用しますと……

わたしは「死」のために止まれなかったので――
「死」がやさしくわたしのために止まってくれた――

『対訳 ディキンソン詩集』39番(141p)

こんな書き出しの詩が飛びだすのがディキンソンさんです。

「希望」は羽根をつけた生き物――
魂の中にとまり――
言葉のない調べをうたい――
けっして――休むことがない――

『対訳 ディキンソン詩集』18番(75p)

おわかりいただけるでしょうか、この鬱くしさを……。

一部のみ引用しておりますので、ぜひ全文はご本で確認していただきたいんですけど!!!(土下座)

ちなみにやたらと「――」が出てくるのは私が略しているわけではなく、ディキンソンさんの詩の基本仕様です。原文の英詩でもダッシュを多用しているんですね。その辺も対訳を読む面白さだなー、と思います。

この詩の美しさは訳者の亀井俊介先生の名訳によるところもあるかと思いますが、亀井俊介さん、本来は翻訳者ではなく文学研究者の模様。(専門はアメリカ文学のようなので、詩の時代背景なども含めて詳しいことを考えれば表現の云々抜きでも適任なのかも)

亀井俊介さんは日本の文学も研究されていたようで、近代詩や有島武郎さんにかんする著書もございます。

もう、本当にディキンソンさんに対しては、詩の一つ一つの推しポイントをあげて解説しだしたりするとキリがないので、推しの詩を箇条書きにします。

・成功をもっとも心地よく思うのは(1番・37p)

・水は、のどの渇きが教えてくれる(7番・51p)

・わたしがもう生きていなかったら(9番・55p)

・わたしは手に宝石をにぎりしめ――(15番・69p)

・なぜ――あの方々はわたくしを天国から締め出すのでしょう?(16番・71p)

・わたしは葬式を感じた、頭の中に(20番・81p)


…………………………キリがないのでこの辺でやめときます!!!

タイトルっぽくありませんが、全ての詩にタイトルはなく、なんなら決まった形式というものもなく(原文見ると一応韻とか踏んでたりするんですけど、いかんせんダッシュ多用で1文の長さもだいぶ自由すぎる)詩集では詩の冒頭と共に番号が振られていますので、それを準拠にしています。

この言葉の断片を見て「いいかも」と感じた方は、どっぷり浸かれると思いますので、ぜひお手に取っていただきたいところです。

ディキンソンさんの詩集はいくつか訳書がでているのですが、岩波版は対訳なので英語の原詩を一緒に載せている点、女流詩人だからといって変に女性性を強調した台詞っぽい訳をしていない、あと入手しやすい(重要)という点で最もおすすめです。

私のお気に入りの詩の中でも、字書き属性の方には響くかと思うこの詩の引用をもって、この感想文は〆たいと思います。

語りだしたら止まらないので読んでください。読んでください。お願いしますから。

ことばは死んだ
口にされた時、
という人がいる。
わたしはいう
ことばは生き始める
まさにその日に。

『対訳 ディキンソン詩集』46番(161p)

>>Amazon『対訳 ディキンソン詩集―アメリカ詩人選〈3〉』エミリー・ディキンソン・著/亀井俊介・編集

この記事が参加している募集

推薦図書

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?